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冥府スティクス河テスタ〈冥府スティクス河〉

あらすじ

アイネイアスはイタリアを目指して出発し、クマエの岸に着きます。巫女シビュラに亡き父に会うため冥界へ行きたいと頼み、彼女の案内で冥界へ向かいます。

黄金の枝を手に入れ、冥界で父アンキセスに再会し、未来のローマの英雄となる子孫について聞きます。無事に地上に戻り、シビュラに神殿を建てると約束します。

しかし、シビュラはその申し出を断り、アポロン神の申し出を拒み、若さを失って長寿を得た自分の運命を語ります。

アイネイアスはカイエタの岸で、かつてのオデュッセウスの仲間と再会し、ラティウムへ進みます。

アイネイアスとクマエの巫女シビュラと冥界へ

アイネイアスたちは、再びイタリアへ向けて出発します。

昔、ゼウスがケルコプスたちの欺瞞、嘘の誓いを憎んで彼らをしわの多い獣に変えたという「猿ヶ島」(ナポリ湾の二つの島ピテクサエ)を過ぎると、クマエの岸に着きます。

アイネイアスはクマエの巫女シビュラに、亡き父に会うために冥界へ行きたいと頼みます。

巫女シビュラは答えます。
「武勇にかけてはこの上もない英雄よ、あなたの孝心はトロイア陥落の業火が知っております。あなたの父の霊に会えましょう。私が道案内をいたします」

巫女は冥界の女王ペルセポネに捧げられた森の黄金の木の枝を折り取るよう、アイネイアスに伝えます。

こうして、アイネイアスは冥界めぐりをし、冥界の先にあるエリュシオン(楽園)で父アンキセスに会うことができました。父は彼に来るべき戦いと子孫が未来のローマの英雄となることを告げます。

冥界の帰途、アイネイアスは巫女に礼を述べました。
「冥界に下って、父に会い、こうして無事に帰れます。地上に着きましたら、あなたの神殿を建て、お礼をしたいと思います」

アポロンに愛された巫女シビュラ

巫女シビュラは悲しそうにこう答えました。
「私は神ではありません。そのような神殿は人間には相応しくありません。私は、かつてアポロン神に望まれました。『クマエの乙女よ、望みは何でもかなえられよう』。

私は砂をすくい取り、この砂の数だけの年数を生きられるよう、愚かにもアポロン様に頼みました。若さをも保てるようにとは忘れていました。もちろん、アポロン様は両方をかなえてくださるつもりだったのですが、私はアポロン様をはねのけて、結婚しないままで今に至っています。

ご覧のように老婆となった私は、もう700年も生きています。しかも、まだ300もの砂粒(300年分)が残っているのです。誰も、私のことを忘れ去る運命なのです」

その後、アイネイアスは地上に戻るとしきたりの供犠を終え、後に乳母の名前カイエタと名のついた次の岸に向かいます。

キュクロプスの島に取り残されたアカイメニデス

こんな偶然があるのだろうか。このカイエタの岸には、かつてのオデュッセウスの部下マカレウスが住んでいました。

一方、アイネイアスの船にも、かつてのオデュッセウスの部下アカイメニデスが乗っていました。

マカレウスは、元同士に声をかけます。
「おい、アカイメニデス。どうしてお前がトロイアの船に乗っているのだ?」
アカイメニデスは、一つ目巨人ポリュペモスの島に取り残されてしまったのです。

「オデュッセウスの船めがけて、切り取った山を投げつけたポリュペモスはこう叫んだんだ!
『畜生め、あのオデュッセウスか、仲間のどいつかが戻ってくればよいのだが。そうすれば、俺の怒りで、そいつの手足を引きちぎり、腹わたを食らってやるのだが。そいつの血でこの喉を潤せたら、失った目など大したことではない』

取り残された俺の気持ちがわかるか!
巨人に食われた、痛ましい仲間の姿がありありと頭に浮かんだ。
『俺はここにいる!戻ってきてくれ~』と叫び声を出すこともできない。

去っていくオデュッセウス様の船を見ながら隠れているよりほかなかった。そんな巨人の島で日々生き延びてきた。

そしたら、このトロイアの船が通りかかり、何とか俺は救出されたというわけだ。トロイアの方々、アイネイアス殿には感謝してもしきれないほどだ」

オデュッセウスとポリュペモスベックリン〈オデュッセウスとポリュペモス〉

マカレウスの告白

今度はアカイメニデスがかつての仲間に問います。
「ところで、マカレウスよ、なぜお前はお頭オデュッセウスとともに行かなかったのだ?」

マカレウスは数々の話を語りました。

キュクロプスの島から逃げ出した後、アイアイエ島のキルケの館で仲間が豚にされた話、イタリアのピクス王がキルケによってキツツキにされた話、冥界へ向けての出航と待ち受けるキルケの困難な予言を考えると、マカレウスは怖くなり、ここアイアイエ島のカイエタに残ることにしたというのだ。

かつてのオデュッセウスの部下たちのなんとも奇遇な再会。そして、アイネイアスの前には、最終目的地ラティウム(イタリア・ローマ)が待っていました。

ローマ建国の祖アイネイアス[4]ラティウムに上陸し、神となる!

オデュッセウス、キュクロプスの洞窟から脱出[第9歌 後編]

魔女キルケに豚にされるオデュッセウスの部下[第10歌 前編]

魔女キルケとキツツキの話[第10歌 番外]