1話5分で読めるギリシャ神話

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アルケスティス 中編[エウリピデス作]ヘラクレスと父ペレス

妻アルケスティスの死に悲嘆するアドメトス。妻の死を隠してまで、友ヘラクレスをもてなすアドメトス。また、自分の身代わりになって死ななかった父ペレスと母親を罵るアドメトス。
しかし、妻を死なせてまで生きながらえるアドメトス自身、父親に文句を言えるのか? アドメトスには、人間のいろいろな矛盾があります。ここに、深い洞察をするエウリピデスがいます。

アルケスティスの死
ジャン=フランソワ・ピエール・ペイロン〈アルケスティスの死〉

アルケスティスの死に悲しむ人々

(アルケスティスの息子エウメロスと娘、母にすがりつく)

コロス
アルケスティス様は、逝っておしまいになった。もうこの世においでになりません。
アドメトス様、人は皆、死んでいきます。耐えるしかありませぬ。

アドメトス
それはよくわきまえておる。前より、この日が来るのはわかっていたのだから。
よいか、今より1年間は、楽しい賑わいの笛の音、竪琴の調べも聞こえてはならぬ。

(アドメトス、アルケスティスの亡骸と館の中へ)

コロス
生みの母親も年老いた父親も、息子のためには死のうとしなかった。
アルケスティス様は花も盛りの若い身で、夫に代わって世を去った。
このような伴侶を私たちも持ちたいもの。

(ヘラクレス、棍棒を手に獅子の皮を肩にかけて登場)

ヘラクレス
みなさん、アドメトス殿には館の中で会えようか。

ディオメデスの人食い馬 モロー〈ディオメデスの人食い馬〉

アドメドスの友ヘラクレスの難業

コロス
ヘラクレス様、アドメトス殿は館の中においでだが、いったい何の用でこのテッサリアまでおいでか。

ヘラクレス
ティリュンス王エウリュステレスの難業で、トラキアのディオメデスの4頭立てをもらいうけにな。
道すがら、友に会いに来たというわけだ。

ヘラクレスの功業6怪鳥・7クレータの牡牛・8ディオメデスの馬

コロス
それは大変な難業ですな。ディオメデスの馬は、その口で人をも引き裂くそうですよ。

ヘラクレス
その飼い主は、何者なのだ。

コロス
ディオメデスは、軍神アレースの御子ですぞ。
(トロイア戦争の英雄ディオメデスとは別人)

ヘラクレス
アレースの子か。なるほど、難業がますます厳しくなってくるな。

アドメドス、ヘラクレスに妻アルケスティスの死を隠す。

アドメトス登場。

アドメトス
よくおいでくださった、ゼウスの子ヘラクレス君。

ヘラクレス
アドメトス君、お元気で何よりです。
しかし、なんで髪を切り、そんな葬いじみた格好をしているのかね。

アドメトス
これから、ちょっと葬式に行くところなのです。

ヘラクレス
お父上か誰かが亡くなったとか。

アドメトス
父も母も、にくたらしいぐらい元気ですよ。

ヘラクレス
よもや、奥方のアルケスティス様が亡くなったとか。

アドメトス
あれが受ける運命をご存じないのですか。

ヘラクレス
知ってます。あなたの代わりに死ぬことになったとか。でも、まだ生きておられるなら、お嘆きは早い。死人は、身内の一体どなたなのですか。

アドメトス
親戚の女ではあるが、大切な者、今しも悔やんでいるのです。

ヘラクレス
では、そんな折ならば、他の知り合いの家で厄介になるとしよう。

アドメトス
他の家へなんて、とんでもない。
(従者に)お前が客室にご案内しなさい。しっかり饗応するように。
(耳元へ小さな声で)中庭への扉は全て閉じるように。
饗応の場に愁嘆の声が聞こえては、客人に失礼になる。

(ヘラクレスと従者退場)

アドメトスと父ペレスの争い

コロス
アドメトス様、奥様の葬式の日に、なぜ客人を泊めなさるのですか。

アドメトス
せっかく訪ねてくれた客人だ。訳を話せば、あるいは気がついても、ヘラクレス君は決して私の館の中には入らぬ。

コロス
アドメトス様、殿のお父上ペレス様がやってきました。

(アドメトスの父ペレス、葬儀の供物を持って登場)

ペレス
息子よ、堪え難いにせよ、耐えねばなるまい。この装身具をつけて、丁重に黄泉の国に送ってやってくれ。息子の命の恩人、我が家系もなくならずに済んだ。誠に立派な妻といえよう。

アドメトス
あなたは葬式の隣席の数に入っていません。装身具などもいりません。ご同情するなら、私が死にかけていた時にするべきでした。それを、年寄りの身で若い者を死なせておいて、悔やみごとをおっしゃるのですか。

人生の終わりに来ていながら、一人息子に代わって死のうという意思も勇気もなかったのですか。全く意気地の無さでは世界中の誰にも引けをとらない。全く、口先だけのことなのですね、年寄りが早く死にたいと願うのは。
私はけっして、あなたと母の葬式をすることはないでしょう。

ペレス
生意気な。あまりに父のこのわしを侮辱している。何もお前のために死なぬほどの恩義をお前から受けてはおらぬ。また、先祖代々、親は子の身代わりになって死なねばならぬという掟など受け継いでなどいない。そんな掟などギリシャだけでなく、世界中どこにもない。

わしのために死んでくれるな、私とてお前のためには死なぬ。その上、自分の死を棚に上げて、天の理を曲げて妻に身代わりになってもらった。そんなお前こそ、恥知らずな卑怯者ではないか。アルケスティスの兄アカストスが、きっと妹の血に復習するであろう。

アドメトス
さあ、我々はこの亡骸を火葬にする支度をしよう。

(ペレス退場。一同、アルケスティスの棺を担いで退場)

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