1話5分で読めるギリシャ神話

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アンティゴネ 2[ソポクレス作]神の法 vs 人間の法

アンティゴネ vs クレオンは、「神の法(ピュシス)」vs「人間の法(ノモス)」です。アンティゴネは神の法により、兄ポリュネイケスを葬ろうとしました。クレオンの人間の法を破って、死罪になろうともその意志はくじけません。

ポリュネイケスを弔うアンティゴネ
J=J・バンジャマン=コンスタン〈ポリュネイケスを弔うアンティゴネ〉

アンティゴネ、逮捕される!

コロス:町の長老たち。番人、アンティゴネを引き立てて登場)
コロス
これは、また不思議な兆し。なんと不幸な、アンティゴネ様、まさか、あなたが、国王の布告に背いたというのか!
番人
この娘が、ポリュネイケスの亡骸に土をかけていたんだ。ところで、クレオン様はどちらで。
(クレオン、館から登場)

クレオン
さっきの番人、これはどうしたというのだ。アンティゴネ?
番人
この娘が、葬いの式をとりおこなっていたんです。
クレオン
それは、間違いないことなのか。
番人
亡骸をおおった土を取っ払っておいたら、この娘がやってきたんです。むき出しになった死体を見ると、声をあげて泣き出しました。それから、両手で砂をかけ始めたんでさ。青銅の水差しも高く掲げて。
で、急いで取り押さえたんです。
「前もそうしたのか」と問いただしても、否定しませんでした。
クレオン
これ、お前が本当にしたのか。
アンティゴネ
ええ、もちろん、しないとは申しません。
クレオン
(番人に)お前はもう下がってよい。
お前は、葬いの式をしてはいけないという布告を、知ってのことか。
アンティゴネ
はっきりと、知っていました。
だって、布告を出したお方がゼウス様ではありません。あの世をおさめる神々といっしょにおいでの、正義の女神が、そうした掟を、人間の世におたてになったわけでもありません。
また、あなたの布告に、そんな力があるとも思えません。
コロス
災難にも少しもめげない。やはり、オイディプス王の血を引いておられるからか。
クレオン
だが、よく覚えておけ。布告を破り、さらにそれを自慢するとは、さらなる不法を犯す者だ。それに、妹イスメネも、この葬いの手伝いをしているに違いない。彼女も呼んでこい。だからか、館の中で正気とも思えない様子だった。
アンティゴネ
妹は関係ありません。私だけ罰すればすむことです。
クレオン
それで十分。お前だけ罰すれば万事かたがつく。

アンティゴネとイスメネ

イスメネの願いを拒否するアンティゴネ

(イスメネ、館の中から従者に引っ立てられて登場)
コロス
イスメネ様が見えた。姉上を気遣う涙に泣きぬれて。
クレオン
(イスメネに)お前も、この葬いに加担したと白状するか。それとも否定するか。
イスメネ
はい、私もその仕事をいたしました。
アンティゴネ
あなたは、嫌と言ったはず。そんな嘘は、正義が許さないわ。
イスメネ
お姉様の道連れになるのをいといません。また、恥とも思いません。
アンティゴネ
口先だけなんて、ちっともありがたくありません。
イスメネ
お姉さま、お願い。私を見下げないで。一緒に死なせて。
アンティゴネ
私が死ぬだけで、十分。あなたは生きる道を、私は死ぬ道を選んだのです。
イスメネ
どうして、姉さんと別れて、暮らしていけましょう。
また、クレオン様、お自分の息子の許嫁を殺そうとなさるのですか。
クレオン
悪い女は、今や息子の嫁にはごめんこうむる。
アンティゴネ
まあ、愛するハイモン。
クレオン
もう、我慢がならん。この結婚を中止させるのは黄泉の国の主だ。
コロス
どうやら、アンティゴネ様の死罪はもう決まったもの。
クレオン
こいつらを中へ、引っ立てていけ。
(従者、アンティゴネとイスメネを館の中に)

アンティゴネの許嫁ハイモン、民衆の同情を訴える

(クレオンの息子ハイモン登場)
コロス
ほれ、ハイモン様が許嫁のアンティゴネ様の不幸に、胸を痛めておいでのようだ。
クレオン
ハイモン、父の裁きに怒っているのではあるまいな。
ハイモン
いつも父上は、立派な意見で私をお導きです。
クレオン
そうだとも、お前、その心得が肝腎だ。万事につけて父親の意見に従ってゆく、というのを胆に銘じておくのだ。悪い身内以上にひどい禍いはなかろう。それゆえ、あの娘など、あの世へいってどの男とでも結婚するよう追い出してやれ。
※アンティゴネとイスメネはクレオンの姉イオカステの娘
ハイモン
父上、神々は人間に生まれついての、分別というものをお与えです。それはあらゆる持物の中でもいちばん尊いものです。私には、今の仰せが間違っているとは言えません。
でもまた、他の見方がもっともらしく見える場合もありましょう。
一般の市民にしては、王であるあなたが恐ろしいに違いありません、ことさらご機嫌をそこなうような、そんな噂をするわけにはまいりません。

ところで、私なら、そんな噂を聞くこともできるのです。どんなにこの町の者が、あの娘のために悼み嘆いているかということを。それも、このうえなく立派な仕事をしたというのに。そのためとりわけ惨めな死をとげようとしている。
あの娘は、自分の兄が死んだままで、葬いもされず、生肉をくらう犬や野鳥の類に荒らされるのを見過しにはできなかったのだと。噂がひそかに闇のあいだを拡がっています。

されば、なにとぞ、ただ一つの見方ばかりに固執してくださいますな。父上の仰せばかりが正しいもので、ほかはみな間違いだなどとは。どうか、お心を翻えしてくださいまし。
コロス
どちらも、正しいことをおっしゃっています。お互い、良い意見は取り入れられますように。
クレオン
こんな若造の意見から、息子の意見から教われというのか。不届き物を罰しないのが良いことなのか。
ハイモン
いや、べつに。町の者はみんなそう申しているわけではありませんが。
クレオン
では、この国の民が私に統治の仕方を指図しようというのか。国というのは、その主権者に服するのだ。どうやら、あの女の味方をするつもりだな。
ハイモン
いえ、父上が正道を踏みはずすのを見かねるからです。彼女が死ねば、私も死ぬことになりましょう。
クレオン
(従者に)あの女どもを連れてこい。ここで死なせてやるからな。花婿のそばでな。
ハイモン
いえ、けっして私のそばでは殺させません。父上、なんと頑迷な。もう、私の顔を二度と見ることはないでしょう。
(ハイモン退場)

クレオン
勝手にするがよかろう。だが、娘たちを助けることはできはせぬ。
コロス
では、二人とも死罪に。
クレオン
いや、皆の考えもわからないではない。二人とも手を下すのはやめよう。
アンティゴネにはわずかな食料をもたせ、町外れの岩窟に閉じ込めよう。あとは黄泉の王のお心次第。そうすれば、死んだとてこの国が穢れることはない。
(クレオン退場)

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