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アイギナとユピテル(ゼウス)グルーズ〈アイギナとユピテル(ゼウス)〉

アテナイ王ケパロスの願い

アイギナの同盟国アテナイから、旧友で王であるケパロスがやって来ました。「ミノス王のクレータから守るため、わがアテナイに兵士をお貸しください

アイギナ王アイアコスは、快諾しました。「必要な兵力をお貸しします。数多くの国民を持っておりますから」

「ありがたい、大変うれしく思います」と、ケパロス。ところで、ケパロスは先程から気になっていることを問いかけました。

「不思議に思っていたのですが......多くの若者がおいでですが、皆同じ年頃のように見えます。また、私のかつての知り合いが一人もお見受けできません。どうなさったのですか」

すると、アイアコスはうめき声をあげました。そして、悲しみをこめた声で話し始めました。

ゼウスのアイギナへの愛

「河神アーソーポスの娘アイギナ、実は私の母親なのですが。ゼウスが母をさらった時のこと。父は母を捜して、コリントスまでやってきました。

コリントス王シーシュポスは、ゼウスが犯人だと父に教えました。激怒したゼウスは、シーシュポスに岩を山に運ぶ罰をあたえたのです。

また、ゼウスは雷霆を投げて、父を川底まで撤退させました。そして、ゼウスは母アイギナをここオイノネ島に連れてきて、交わり私を生みました。以来この島は「アイギナ島」と呼ばれるようになったのです」

シーシュポスの岩「不条理とは何か?」

ヘラの嫉妬

「女神ヘラはゼウスの寵愛を受けた女の名アイギナをつけたこの島に、嫉妬から怒り、疫病をはやらせました。厚い雲がこの島を被いました。四ヶ月の間、死のような南風が吹き荒れました。疫病は井戸や泉から始まりました。

そこを住処とするヘビが地上にはい出し、毒をまき散らしました。毒は下等動物や鳥、山の動物、猪や鹿、熊に、次に犬、牛、羊を襲いました。死骸は、そこかしこにあふれ、空気は毒のある臭いで汚れました。

次に村の者たち、街の者たちも襲われました。顔は真っ赤になり、呼吸も苦しく、舌はざらざらになり、その熱は衣類をはぎとり、地面に伏して熱を冷まそうとしました。が、人の熱は地面まで焦がすようになり、人から人へ感染します。

医者もなす術もありません。医者は助けようとして病人から真っ先に感染してしまうからです。そして、死が疫病の唯一の解放者となってしまったのです。ケパロス殿、あなたがご存知であった人々は、この時みんな死んでしまいました」

樫の木に登るアリたち〈樫の木に登るアリたち〉

一本の樫の木

「私は祭壇の前で祈りました。
『おおゼウスよ、もしあなたがほんとうに私の父ならば、そして、あなたの子を恥と思し召さぬなら、私に私の民をお返しください。さもなければ、私の命をもお召しください!』

すると、雷鳴が轟きました。

『前兆をお受けします。私にとってよき御心でありますように』

今度は近くにたちまち樫の木が生えてきました。大きくなったその幹に、穀物をかかえた多くのアリたちが登っていくのです。私は言いました。

『おお父よ、このアリと同じ数だけ、国民をお与えください』と。
その樫の木は、風もないのにざわざわと音をたて、揺れました。私はその幹に、希望を持って接吻しました」

アイアコスの夢

「その夜のことです。あの樫の木が夢に現れました。その幹や枝には動き回るたくさんのアリがいるのです。樫の木は枝をふるわせ、アリをふるい落としました。

アリはみるみる大きくなり、その固く黒い手足は白くなり、頭は人間の頭に変化しました。おびただしい数の人間となって立ち上がってきたのです。

そこで、目が覚めると、外から大勢の人の声が聞こえてくるのです。私はまだ夢を見ているのかと思っていると、息子テラモーンが門を開けて叫びました。『父上、早く外に出てご覧ください。父上の望みをご覧ください』。私が外に出ると、無数の人間が集まっていました」

このようにアイアコス王は、ケパロス王に話しました。このアリから生まれた人間は「ミュルミドン(アリ人間)」と呼ばれます。アリのようによく働き、規律正しく戦います。

このアイアコスの子がペーレウス、その子がアキレウスです。アキレウスはトロイア戦争で、このミュルミドン人を率いて戦ったのです。

また、アイアコスはその敬虔な人柄から、冥府のカギを冥王ハデスから預かっていると言われています。

アイアコスと息子テラモーン〈アイアコスと息子テラモーン〉