1話5分で読めるギリシャ神話

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第十六歌後編:パトロクロス、死す。

パトロクロスはヘクトルに討たれたのではありません。ヘクトルは止めを刺しただけ。彼を殺したのは、実はアポロンです。そして、アポロンの背後にはゼウスがいたのです。ゼウスがアキレウスの母テティスの願いを聞きいれたためです。
このように、トロイア戦争の背後には、大なり小なり神々の力が働いていました。英雄は自分の運命とわかっていても、敢然と立ち向かいます。ここに、イリアスの英雄の魅力があります。

パトロクロスの遺体をめぐっての攻防
アントワーヌ・ヴィールツ〈パトロクロスの遺体をめぐっての攻防〉

グラウコス、ヘクトルに訴える。

グラウコスは深い悲しみの中、サルペドンの胸から槍を引き抜いた。その後、テウクロスに射られた腕の痛む傷を抑え、アポロンに願った。
「アポロンよ、どうかこの傷を癒し、戦友の亡骸を守って戦うことができるよう、力をお授けください」
アポロンは、その願いを聞き入れた。

痛みが消え、気力を回復したグラウコスは、リキュエ勢の隊長たちに
「サルペドンの亡骸を守って戦え」と激励した。

その後、グラウコスはヘクトルの所にいくと訴える。
「ヘクトルよ、我ら援軍のことを忘れているようだな。我らはトロイアのために戦っていのだ。そなたはそんな我らを守ろうともせぬ。パトロクロスの槍にサルペドンは死んだ。ミュルミドネス勢が武具を剥ぎ取り、遺体を辱めるのを許してはならぬ」

ヘクトルならびにトロイア勢は悲嘆にくれた。サルペドンは異国人であったがずっとトロイアを守ってきた勇士だからだ。ヘクトルが先頭に立ち、サルペドンの遺体のところに向かった。

サルペドンの遺体をめぐる攻防

こうして、ギリシャ勢とミュルミドネス勢対トロイア勢とリキュエ勢の激しい戦いが始まった。
ギリシャ方はパトロクロス、両アイアス、メリオネスが。トロイア方はヘクトル、アイネイアス、グラウコスがサルペドンの周りで戦っていた。

ゼウスは思案していた、ここでヘクトルにパトロクロスを討ち取らせるか、もっと手柄を立てさせてから討ち取らせるか。後者の選択をしたゼウスは、ヘクトルに臆病風を吹かせると、彼は戦車で乗って逃走しだし、トロイア勢にも「逃げよ」と呼びかける。リキュエ勢も自軍の王サルペドンが討たれ、さらに戦死者が多く出ているのを見て退却に移った。

ゼウスはアポロンに
「アポロンよ、サルペドンを連れ出して黒い血を河水で洗い流し、アンブロシアを塗って不壊の衣を着させてやってくれ。その後〈死〉と〈眠り〉の神にリキュエに運ばせてくれ。しからば、家族は墓を立てて葬るであろう」
アポロンはすぐに実行した。

サルペドンの遺体を運ぶタナトスとヒュプノス
ヨハン・ハインリヒ・フュースリー〈サルペドンの遺体を運ぶ死と眠りの神〉

パトロクロス、アキレウスの言いつけを忘れる。

パトロクロスはトロイア勢とリキュエ勢を追って多数の敵を打ち取っていった。ゼウスが、彼の戦意を煽ったからであった。彼は三度トロイアの城門に足をかけたが、アポロンがそれを押し返した。アポロンがいなければ、トロイアは落ちていたであろう、それほどパトロクロスは奮戦していたのだ。

だが、彼が四度目に城門に足をかけると、アポロンは凄まじい声を出した。
「引きさがれ、パトロクロスよ、誇り高きトロイア人の城はそなたによって落される定めになっておらぬ。それはそなたより数段優れたアキレウスによってさえかなわぬのだ」
パトロクロスは、アポロンの怒りに引きさがるをえなかった。

ヘクトルは戦況を見つめていたが、そこへアポロンが肉親のアシオスの姿になって近づいてきた。
「ヘクトルよ、どうして戦わないのだ。おぬしらしくない。さあ、パトロクロスに馬を向けよ。みごと彼を討ち取り、アポロンがお前の名をあげさせてくださるかもしれぬ」
こういうとアポロンは去り、ギリシャ勢を混乱させた。ヘクトルはそんなギリシャ勢には目もくれず、ただひたすらパトロクロス目指して馬を進める。

ヘクトル vs パトロクロス

パトロクロスは戦車を降り、石を拾うと投げつけた。石は御者ケブリオネスの額に当たった。御者は戦車からもんどりうって落ちて死んだ。ヘクトルは戦車から飛び降り、遺体を挟んで二人が争うさまは、まさに二頭の獅子のよう。周りではギリシャ勢とトロイア勢も凄まじく戦っていた。そんな中、パトロクロスは敵9人を倒した。

この時、パトロクロスに気づかぬように向かってきたのはアポロンであった。神は深い霧に包まれていた。パトロクロスの背後に回ると、肩と背を叩いた。パトロクロスは眼がまわりくらんだ。神は兜を叩き落とし、槍はばらばらに砕け散り、楯は肩から落ちた。さらに、鎧を解き緩めると、パトロクロスの精神は朦朧とし、体の力も抜け、呆然と立ちすくんだ。

パトロクロスの死

勇士エウポルボスの投げた槍がパトロクロスの背中にあたった。が、死には至らず、エウポルボスは槍を引き抜くと自陣に紛れ込んだ。武器も防具もないパトロクロスに立ち向かう勇気がなかったからだ。パトロクロスも自陣に向かおうとしたが、ヘクトルが彼に近づき、槍で下腹を刺し貫いた。ギリシャ勢は悲嘆にくれる。

パトロクススの死
〈パトロクススの死〉

ヘクトルは言い放った。
「パトロクロスよ、おぬしは我らの城を落とし、トロイアの女たちを強奪するつもりであったであろう。しかし、槍をとっては並ぶ者がいないこのヘクトルが守っているのだ。おぬしは。ここで禿鷹の餌になる。哀れな男よ、アキレウスも何の役にも立たなかったな」

断末魔の中、パトロクロスは答えた。
「ヘクトルよ、今はいくらでも威張るがいい。ゼウスとアポロンが勝利を授けてくださったのだ。神にとって、私を倒すなど造作もないこと。私の武具を剥いだのも神々であったのだから。そうでなければ、おぬしが20人束になってかかってきても、私には勝てぬ。心しておけ。おぬしの命も長くはない。すでにおぬしの横に死の運命が立っている。アキレウスの手にかかって果てる運命だ」

「パトロクロスよ、何を頼りに私の死を予言するのだ。私か勝つか、アキレウスが勝つか、誰にそれがわかる」

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