1話5分で読めるギリシャ神話

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第八歌後編:ヘレとアテナ、立ち上がるが...

アテナ

(イリアス 第八歌 後編)

総大将アガメムノンの叱咤激励と弓の名手テウクロス

ヘクトルの戦いに危機感を持ったアガメムノンは、船団の中央にあるオデュッセウスの船の傍に立ち、
「恥を知れ、たった一人のヘクトルに対して互角に戦えぬとは。どうか、ゼウスよ、我らを助け給え」

ゼウスはこれを聞き入れ、即座に仔鹿を鷲につかませギリシャ軍の祭壇に落とさせた。これを見たギリシャ勢は、鳥はゼウスから遣わされたと知り、闘志を新たに奮い立った。

ディオメデス、アガメムノンとメネラオスの兄弟、両アイアス、イドメネウスなどが、トロイアの武将を次々に倒していった。中でも弓の名手テウクロスの働きは素晴らしかった。兄弟アイアスの大楯の陰から、多数のトロイア兵を射止めた。アガメムノンは、大いに彼を褒め称えた。
※敵に斬り殺されないように、仲間の大楯に守られながら、弓使は矢を射ます。

しかし、テウクロスは矢を射かけ続けたが、どうしてもヘクトルに当てることはできなかった。なぜなら、アポローンが矢をそらしてしまうからだ。

ヘクトルは大きな石を拾い上げると、テウクロスに投げつけた。石は鎖骨にあたり、手から弓は落ち、彼は膝をついた。すかさず、彼を大楯でかばったのはアイアスであった。

この時、またしてもゼウスはトロイア勢を雷火で鼓舞し、ヘクトルの形相は軍神アレスか怪物ゴルゴン(メドゥーサはその一人)かのよう。またしても、彼の前にギリシャ軍は大勢の兵を失いながら、濠をこえ船陣に逃げ込んだ。

テラモンの子、弓の名手テウクロス
〈テラモンの子、弓の名手テウクロス〉

ヘレとアテナ、立ち上がるが...

これを見ていたヘレはアテナを呼び、
「アイギス持つアテナよ、このままギリシャ軍をかまってやらなくて良いものか。ヘクトルは、もはや手がつけられぬ」
※「アイギス持つ」はアテナの枕詞。アイギスは防具。楯、あるいは胸当てか肩当て。

「ヘクトルめ、死んでしまえばいいのに。本当に、父上(ゼウス)ときたら、何を考えているのやら。父の御子ヘラクレスがエウリュステウスの難業の時、わたしが苦しんでいるのを助けたことなどケロリと忘れておいでになる。それなのに、父上は今はわたしを憎み、アキレウスの母テティスの望みを叶えている」

こうして、ヘレは馬を用立て、アテネは鎧兜に身を包み、槍を手に取ると緋色の馬車に乗り込んだ。

これに気付いたゼウスは、虹の神イリスを呼び、二人に伝えさせた。
「あの二人を引き返させよ。さもなくば、車から二人を投げ出し、車は粉々に砕いてやる。雷火の傷は10年経ってもなかなか直るまい。娘も父と争えばどうなるか、わかるだろう。ヘレには、もう呆れはてて腹も立たぬ。昔から、何かにつけてわしの邪魔をしてくるからな」

イリスからゼウスの伝言を聞いたヘレは、アテナに対して告げた。
「心苦しいが、ゼウスを相手にして戦うのは諦めねばなるまい」

ヘクトルの運命は決まっている。

ゼウスは神々が集まる席で、ヘレに言った。
「まだまだ大勢のギリシャ兵が死ぬ。ヘクトルはアキレウスが立つまでは戦いを止めぬ。やがてパトロクロスが討たれ、その亡骸をめぐって両軍が戦いを交える日のことだ。運命はそのようになっている」

地上では夕闇が迫り、ギリシャ勢を追い詰め壊滅できなかったトロイア勢には無念の想いが残り、ギリシャ勢にはホッとした夜の到来であった。

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