1話5分で読めるギリシャ神話

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第五歌後編:ディオメデス、軍神アレスに傷を負わせる

ベルリン王宮橋のディオメデスとアテネ
ベルリン王宮橋〈ディオメデスとアテネ〉出典

(イリアス 第五歌 後編)

ヘクトルとアレスの最強コンビ

アポロンがアイネイアスを再び戦場に送り出すと、トロイア軍は彼の無事な姿に歓喜した。
一方、ギリシャ総大将ガメムノンと弟メネラオスも戦場にあった。
アガメムノンがアイネイアスの部下デイオコンを倒せば、アイネイアスもクレトンとオルティロコスを打ち取る。さらに、アイネイアスはメネラオスを倒そうとしたが、メネラオスのそばにネストルの子アンティロコスが従っていたので、あきらめざるをえなかった。

メネラオスとアンティロコスには、今度はヘクトルと軍神アレスが向かって行った。アレスがヘクトルの前後を行き来していたので、ディオメデスは神の姿を確認すると、ギリシャ軍に叫んだ。
「ヘクトルは。単なる勇者ではなかった。彼には神が必ず一人付いているのだ。今は、軍神アレスが付いている。けっして、アレスと戦おうとしてはならぬ」
そのため、軍神アレスとヘクトルに多くの武将を倒されながら、ギリシャ軍はじりじり後退していくしかなかった。

また、別の場所では、ゼウスの子トロイア軍のサルペドンと孫でありヘレクレスの子であるギリシャ軍のトレポレモスが槍を投げあい戦っていた。サルペドンの槍は、トレポレモスの首を刺し貫いた。サルペドンも腿に槍が刺さったが、死ぬほどの傷ではなかった。オデュッセウスは、サルペドンの家来を多数倒していったが、軍神アレスとヘクトルがやって来たので、それ以上倒すことはできなかった。

アテネとヘレ、オリュンポスを下る

下界の様子を見ていたゼウスの妃ヘレは、アテネに
「なんたることであろう、厄病神アレスが荒れ狂っている。このままでは、約束したギリシャ軍が勝つことはなくなってしまうぞ」
ヘレは馬を用意し、女神へべは車を準備した。黄金の兜と鎧をつけたアテネは、恐るべき盾アイギスを持ち、そのふちには「潰走」「争い」「勇武」「追撃」が寄りそった。また盾の中央には、あの恐ろしいゴルゴンの首もあった。

ヘレはゼウスに苦言を言った。
「ギリシャの武将を倒しているアレスの所業、それをただ見ているアポロン。あなたは、あのアレスを戦場から追い出したら、ご立腹なさいますか」
「いいとも、アテネを彼に立ち向かわせるが良い。アテネなら、いつもアレスをやり込めている」

ヘレは馬に鞭を当て、アテネとともにオリュンポスから駆け下りた。二人は、トロイアのシモエイスとスカマンドロス河の間に降り立った。ヘレは武将の姿をかりて叫んだ。
「ギリシャの者ども、恥を知れ。アキレウスがいた頃は、トロイア軍は我らギリシャ軍の船場まで攻めてこなかったではないか」

軍神アレスと戦略の神アテネ
ダヴィッド〈軍神アレスと戦略の神アテネ〉

一方、アテネは傷口を癒しているディオメデスのところにやってきた。
「そなたの父テュデウスは情けない子を産んだものだ。彼は戦うなと言っても、戦った。今のそなたは怖気づいたのであろうか」
「アイギス持つゼウスの姫君よ。私にはあなたが兵士の姿をしていても女神とわかります。私はあなたの言いつけに従っただけです。アフロディテなら立ち向かえ、他の神とは戦うなとのお言葉でした。いま戦場をわがもの顔で戦っているのは軍神アレス、あなたが戦うなといった神です。だから、私は部下たちに引き下がるよう命じたのです」
「そなたは可愛い男じゃ。言いつけなど気にせず、他の神であろうと、ましてやアレスなど構うことはない。すぐさま、アレスに向かって行って傷つけても良い」

ディオメデス、軍神アレスに傷を負わせる

アテネは戦車に乗り込み、ディオメデスの傍らに座るとアレスのところに駆けつけた。アテネ自身はアレスには見えないように「ハデスの兜」をかぶっていた。アレスもディオメデスに気づくと、さっそく槍を投げてきた。その槍の先をアテネがそらす。今度はディオメデスが槍を投げた。槍はアテネに導かれ、アレスの下腹を傷つけた。アレスは両軍が震え上がるような大音響の悲鳴をあげ、オリュンポスへと帰って行った。

ゼウスの傍らに来るとアレスは、
「父上よ、神々はあなたに皆服従しているが、皆あなたに不満を抱いている。あのじゃじゃ馬アテネのせいだ。父上はアテネには甘く、好き勝手にさせている。今回もディオメデスに女神アフロディテの手首を傷つけ、私にさえも鬼神のごとく襲いかかってきた」

そんなアレスに、ゼウスは言い放った。
「お前ほどわしが憎いと思う奴はいない。お前が好むのは戦い、争い、ケンカばかり。ワシでさえ手に負えぬ強情な性分を母ヘレから受け継いでいる。お前を傷つけたのは、そもそもヘレの差し金だ。しかし、おまえが苦しんでいるのを黙って見てるわけにもいかない。おまえもわしの子だからな」
こう言うと、医者を呼んでアレスの治療をさせると、神であるアレスの傷はすぐ癒えた。その頃には、ヘレとアテネもゼウスの館めざして、オリュンポスへの帰途についていた。