1話5分で読めるギリシャ神話

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イリアス第三歌後編:パリス危機一髪

アルロディテ、パリスを救う
〈アルロディテ、パリスを救う〉トルコ・アンタルヤ考古学博物館

(イリアス 第三歌 後編)

パリス、危機一髪

トロイア王プリアモスの馬車が到着すると、ギリシャ側からは総大将アガメムノンとオデュッセウスが立ち上がりました。
アガメムノンは「我らの誓約を見守り給え」と、ゼウス、陽の神、黄泉の神などの神に呼びかけます。
両陣営が出したそれぞれの捧げものの牡羊と牝羊の喉を断ち切ると祈願し、みなに肉と酒がふるまわれました。プリアモス王と相談役アンテノルは、城に引き返していきました。

プリアモス王の息子ヘクトルとオデュッセウスは、決闘の場を測り定め、どちらが先に攻撃するか、くじを兜の中に入れます。ヘクトルがまず兜を揺らすと、パリスを示すくじが出ました。パリスとメネラオスは、すで決闘の場でそれぞれ立派な武具をつけてにらみ合っています。

くじによる先制のパリスが槍を投げると、メネラオスの盾にあたりぐにゃりと曲がりました。今度は、メネラオスの攻撃です。
「ゼウスよ、パリスを打ち取らせてください。そうなれば、後世の人は客を迎えた主人に悪事を働くようなことは慎むようになりましょう」
メネラオスは槍を投げました。その槍はパリスの盾を貫き、胸当てを貫き、脇腹をかすめました。すんでのとこで、パリスは死を免れたのです。
さらに、メネラオスは太刀を振りかざし、パリスの兜の星を打ち付けると、太刀は三つ、四つに折れてしまいました。

アルロディテ、パリスを救う

メネラオスは、パリスを仕留められず嘆きました。
「父なるゼウスよ、あなたより酷い神は他におられまい。パリスを仕留めることは叶わなかった」
こう言うなり、メネラオスはパリスの兜をつかんで自陣に連れてこようとしました。兜の首ひもがパリスの喉を締め付けはじめます。

すぐにも、パリスの喉の骨が折れるでしょう。

その時です。アフロディテがひもを断ち切ったので、パリスの首が兜からするりと抜けてしまいました。メネラオスの手には兜が残りました。メネラオスは兜を放りなげると、パリスに踊りかかろうとしました。が、女神は濃い霧とともにパリスをさらって、彼の寝所に運び入れてしまいました。

ヘレネとパリス
ピエール・クロード・ドロルム〈ヘレネとパリス-ヘクトルの怒りの一部〉

アルロディテ、ヘレネを呼ぶ

女神アフロディテは老女に姿を変えると、ヘレネを呼びに行きました。
ヘレネは老女が美しすぎるので、女神だとすぐ気づき、
「まあ、女神さま。どうして、わたしをたぶらかそうとなさいます。メネラオスが勝って、罪深いわたしを連れ帰ろうとしているので、何か悪巧みをお考えでしょうか。わたしの代わりに、女神さまがパリスの側にいてやってください。神の身分をお捨てになって、妻にしてもらうか、小間使にしてもらったらいかがでしょうか。わたしは、もうパリスを世話するつもりはありません」

女神アフロディテは激怒しました。
「不埒な女め、わたしを怒らせぬがよい。さもないと、これまで愛しんできたと同じくらい憎んでやるぞ」
ヘレネは恐れをなして、もはや宿命となった女神の後についていくしかありません。

ヘレネは女神の前でも、パリスを責めました。
「決闘からお帰りになったのですか。あなたはいつも、メネラオスに劣りはせぬ。自分の方が上だと自慢しておいででした。もう一度、メネラオスに一騎打ちの勝負を挑んでみたらどうですか。そうすれば、たちまち彼の槍で最後になりましょう」

パリスはいっこうにこりず、ヘレネを誘いました。
「妻よ、メネラオスには女神アテネが付いていたのだ。今度は私が勝つ番だ。だが、今はそう言わず、今は床入りして、愛の楽しみを味わおうではないか」
こう言うと、パリスは先に立って寝台に向かうと、ヘレネはしぶしぶ後に従いました。

アガメムノンの勝利宣言

一方、戦場ではメネラオスがパリスを探していましたが、見つかりません。トロイア勢にはパリスは戦争の原因、黒い死神のごとくに思われていましたので、誰一人としてかばう者はなく隠すことはありません。そう思い、メネラオスはこれ以上探すのは止めました。

総大将アガメムノンは宣言しました。
「トロイアの人々とその援軍は聞け。メネラオスの勝利は明白である。ヘレネとその財産を返還し、相応の償いをせよ」

しかし、オリュンポス山のゼウスは、まだまだトロイア戦争を終わりにするつもりはありません。