1話5分で読めるギリシャ神話

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12の斧の穴を通す弓の競技

12の斧の穴を通す弓の競技
〈12の斧の穴を通す弓の競技〉

〈オデュッセイア 第二十歌〉

求婚者殺戮の前夜

「耐え忍べ、わが心よ」
求婚者のもとへ通う淫らな女中に苛立ちながらも、なんとか気持ちを落ち着かせるオデュッセウス。
眠れぬ彼に、女神アテーナは「私とゼウスがそなたを守っている」と励ます。
「父神ゼウスよ、なんらかの前兆を示してください」

すると、朝方になって、ゼウスが雷を轟かすと、小麦の臼を挽いていた女中がつぶやいた。
「雲の影が見えないのに、きっと神さまがなんらかの前兆を示されたのでしょう。私もこの辛い粉挽きから解放されて、宴を催すのも今日が最後になりますように」

こうしてまた、いつもの朝、求婚者たちはオデュッセウスの屋敷に集まりだした。豚飼いエウマイオスも牛飼いピロイティオスもやってきた。豚飼いは、オデュッセウスを牛飼いに紹介した。

預言者のテオクリュメノス「何と無残な憂き目にあうことか」

いつもの食事が始まると、テレマコスはオデュッセウスにも席を設けて
「いかなる者もそなたに手をあげたり、罵ったりさせぬ。ここはオデュッセウスの屋敷である。求婚者たちよ、心して暴言や手荒な振る舞いは慎んでもらいたい」
この大胆な発言に求婚者たちは驚いた。が、アンティノウスは言い放った。
「ゼウスのお許しがあれば、我らはとうにその口を封じていただろうに」
今のテレマコスは、この言葉を意にも介さなかった。

女神アテーナが求婚者の中のクテシッポスをそそのかし、オデュッセウスに牛の足を投げつけさせた。オデュッセウスは首を傾け難なくこれをかわした。また、女神は求婚者の心を狂わせ、高笑いを彼らにさせた。すべて、オデュッセウスを鼓舞させるためである。

これに、テレマコスの客人であり預言者のテオクリュメノスが言った。
「ああ、憐れな者どもよ、そなたたちは何と無残な憂き目にあうことか」
これに、エウリュマコスが
「この狂った客人を、誰かこの屋敷から外に連れ出せ」
「エウリュマコスよ、案内人はいらぬ。二本の足があるからな。また、そなたらの災厄が迫っているのが分かるからな」

〈オデュッセイア 第二十一歌〉

弓の競技、始まる

「多年にわたり、このオデュッセウスの屋敷で飲み食いに明け暮れている、求婚者の方々よ。わたしを娶りたいというただそれだけで。さあ、ご所望のものは、この競技の賞品として与えますから、試みられよ。この逆さ弓に弦を張り、12の斧の穴を射通してみよ」

逆さ弓とは、弦を張るときには逆の方向に曲げる強力な弓。そして、競技は、穴の開いた斧の刃12個を一列に並べて地面に刺し、その穴を射通すことであった。

まずテレマコスが父オデュッセウスの弓を引き継ぐ者として、第1番目の候補として挑戦した。が、弓に弦を張ることさえできなかった。
「なんたることか。こんなことでは、私は非力な意気地なしのままで終わらねばなるまい。さあ、各々方も試みられよ」

オデュッセウスの計画

こうして、食卓の席の順番に求婚者が試みていった。だが、弓に弦を張ることさえできなかった。火を焚いて、弓を温め油を塗ってもダメであった。

競技の途中、オデュッセウスは豚飼いと牛飼いの二人を外に連れ出した。二人の忠誠を確かめると、オデュッセウスは素性を二人に明かした。二人はびっくりし、嬉し涙をはらはらと流した。オデュッセウスは、弓の競技に出る旨も告げた。当然求婚者の反対にあうことを想定し、二人にそれぞれの役割を与えた。そして、三人は室内に戻った。

求婚者の筆頭の一人エウリュマコスが弓に挑戦していた。が、彼にも弓に弦を張ることさえできない。
「なんたることか、情けない。ペネロペイアとの結婚は無念ではあるが、この国には女はいくらでもいる。が、弓に弦を張れぬことから、オデュッセウスに力が劣ることが、後の世に知られては恥辱ではないか」

すると、求婚者のもう一人の筆頭アンティノウスが言った。
「エウリュマコスよ、そうのようなことにはなるまい。今日はもうこの競技をやめて、明朝、山羊飼いメランティオスに山羊を届けさせ、弓の神アポロンに腿肉を献じよう。その上で、弓を試み、この競技を終えよう」

オデュッセウス、弓の競技に名乗り出る

「エウリュマコス、アンティノウスどの、この老いぼれがお願いいたす。若い時の力が今でもあるか、わしも確かめたい」
アンティノウスはオデュッセウスに
「この他所者め、お前には分別がないのか。こうして、食事の席に着かせているだけでもありがたいと思え」
ペネロペイアが間に入った。
「アンティノウスよ、たとえ、弓を張り、斧の穴を射通すことができたとしても、わたしを妻にするとでも思っておいでか。客人はそのようなことなど、夢にも思っておられますまい。また、ありえぬことでもあろう」

今度は、エウリュマコスが言った。
「賢明なペネロペイアよ、われらも、そんなことはないと分かっている。が、『奥方に求婚している連中は、オデュッセウスに劣る腰抜けばかりだ。弓の弦を張ることさえできぬ。ところが、素性の知れぬ、老いぼれの物乞いがやすやすと弓を張り、斧を射通したのだ』これは、我らには恥辱でなくて何であろう」

ペネロペイアがそれに答えて
「エウリュマコスよ、いやしくも資産を食い荒らし辱めている者に、良い評判などありえようがないではないか」
今度は、テレマコスが
「母上はご自分の部屋にお上りください。弓については、男たち特に私にお任せください。エウマイオスよ、弓を客人に持っていくよう」

豚飼いは弓をオデュッセウスに渡すと、こっそりと老女に告げた。
「エウリュクレイアよ、テレマコス若様の命令だ、扉を閉めよとのことじゃ」
その間に牛飼いピロイティオスは、中庭に通じる扉を閉めた。
ついに、舞台が整った。
オデュッセウスは弓に壊れたところがないか十分に見定めると、やすやすと弓に弦を張り、いとも簡単に12の斧の穴を射通した。