1話5分で読めるギリシャ神話

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老女、オデュッセウスに気づく

老女エウリュクレイア、オデュッセウスに気づく
エドワード・ポインター〈エウリュクレイアとオデュッセウス〉出典

〈オデュッセイア 第十九歌〉

性悪女中メラント、オデュッセウスに毒づく

オデュッセウスはテレマコスに、広間の武器と盾を隠すように命じた。
「求婚者たちには、酔って互いに傷つけ合うのを防ぐためと言っておこう。終わったら、そなたはもう寝るがよい。わしはペネロペイアと話してみるつもりだ」

テレマコスが寝室に下がると、ペネロペイアが二階の部屋から降りてきた。女中たちも付き従い、食事の後片付けをはじめた。
すると、あの性悪女中メラントが再びオデュッセウスに毒づいた。
「この乞食め、お前はまだここにいるのか。とっとと出て行かぬば、痛い目にあうぞ!」

「そなたは何に腹を立てて、わしを目の仇にするのだ。ボロを着ている乞食だからか。こう見えても、昔は裕福な貴族であったのだ」と、オデュッセウス。
それを聞いていたペネロペイアが、メラントを叱った。
「そなたは何という厚かましい女、恐れを知らぬメス犬、わたしは気づいているのだよ。お前は、もはや自分の首でそれを償わなければならね」
メラントはタジタジになり、後ろに下がった。

オデュッセウスとペネロペイア 20年ぶりの再会

ペネロペイアは、オデュッセウスに椅子をすすめた。じつに、これが20年ぶりの二人の再会であった。しかし、オデュッセウスは素性を明かすことはなく、トロイア出征の折、風に流されキプロス島にきた時、オデュッセウスをもてなしたと語った。ペネロペイアは、たずねた。
「そなたを試すが、その時の夫はどうのような男であり、どのような衣服を身につけていたか。また、家来の様子は?」
オデュッセウスは疑問に一つ一つ答えると、ペネロペイアは懐かしさに涙ぐんだ。

「客人よ、そなたの申す通りであった。今までは気の毒な人と思っておりましたが、これからはそなたはこの屋敷では、親しい大切な方となれましょう」
「奥方様、悲しむことをやめて、わしの言うことをお聞きください。オデュッセウス王は近くのテスプロトイ国で息災であられます。そこの国王は、たくさんの財宝とともにオデュッセウス王をこの国に返すべく、船も船員もすでに用意してあると私に語ってくれました。

今、オデュッセウス王は樫の神木によって、デウスの神意を伺うためにドドネに行っています。公然と帰るか、密かに帰るか、どちらが良いか知りたいとのことです。必ず、年内にはお戻りになられましょう」
「客人よ、願わくは、そなたの言葉どうりになってくれますように。それでも、私はもう夫は帰ってはこぬと予感しています」

オデュッセウスの名の意味は「憎まれっ子」

涙を流しつつ、ペネロペイアは女中たちに命じた。
「誰かこの方の足を洗って差し上げ、寝所を整えなさい。明朝はお風呂に入れて、油を塗ってあげなさい。テレマコスの傍らで食事ができるように」
「そのようなことは必要ありません。もう、粗末な寝所になれていますがゆえ。足も洗ってもらわなくて構いません。どうしてとおっしゃるなら、わしと同じような老女にしていただけたらと思います」

ペネロペイアは、その役を老女エウリュクレイアに申しつけた。この老女はオデュッセウスが生まれた時、イタケを訪問していたオデュッセウスの祖父アウトリュコスに抱かせ、
「アウトリュコス様、あなたの娘アンティクレイアさまがお生みになられたこの子に名をつけてくださいますよう」
「よかろう。わしは若気のいたりで、今まで多くの人間に憎まれてきた(オデュッサメノス)。されば、この子には、憎まれっ子(オデュッセウス)という名がよかろう」
また、オデュッセウスが祖父の国を訪ね、狩りに出かけた時、白い猪に足を傷つけられたことがあった。

老女エウリュクレイア、オデュッセウスに気づく

老女エウリュクレイアは、金だらいを用意し、湯をたっぷり入れると客人の足を洗おうとした。オデュッセウスは、足の傷から素性がばれるのを避けるため、暗闇の方に身を向けた。が、老女は足を手にしたとたん傷に気づき、足を離してしまった。足は金だらいに落ち、湯が飛び散った。老女は喜びと悲しみに胸がいっぱいになり、
「あなたは、間違いなく、ああオデュッセウス様ですね」

ペネロペイアに知らせようとした老女を、オデュッセウスは引き止めた。
「婆やよ、今はまだ黙っていてくれ。すべての求婚者と悪しき女中を成敗するまでは、こっそりと進めたいのだ」
女神アテーナが気をそらしていたので、ペネロペイアが気づくことはなかった。
老女は流れてしまったお湯をふたたび取ってくるため、その場を離れた。

20羽のガチョウの夢、角と象牙の門

ペネロペイアは、苦しい胸のうちをオデュッセウスに語った。
「客人よ、成人した息子ペレマコスは、求婚者たちが財産を食いつぶしているのに苛立っています。そのため、わたしに実家に帰ってくれないかと頼むのです。また、不吉な夢を見たので解いてくださらぬか。それは、

20羽のガチョウが小麦を食べているのです。わたしが心楽しく眺めていると、オオワシが飛んできて、ガチョウ全部の首をへし折って殺してしまうのです。わたしが泣いていると、オオワシが
『ペネロペイアよ、安心するがよい。これは夢ではない。ガチョウは求婚者たち、わたしはそなたの夫であり、彼らを成敗するために帰ったのだ』と言うのです」

「奥方よ、現実はその通りになるでしょう」
「しかし、夢は二つの門のどちらかを通ってやってくるといいます。磨かれた角の門からは正夢が、象牙の門からは実現せぬ迷いごとが。この夢は、わたしには象牙の門を通ってきたとしか思われません。それに、もう時間がないのです。弓で十二の斧を射抜く競技を明日催します。それに勝った求婚者に嫁ぐつもりです」

オデュッセウスは、答えた。
「奥方さま、その競技は実行してくだされ。その競技の前にも、オデュッセウス王は帰ってこられましょうから」