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老女エウリュクレイア、オデュッセウスに気づくポインター〈エウリュクレイアとオデュッセウス〉出典

性悪女中メラント、オデュッセウスに毒づく

オデュッセウスは、テレマコスに広間の武器と盾を隠すように命じます。
「求婚者たちには、武器を片付けるのは酔って互いに傷つけ合うのを防ぐためと言っておこう。終わったら、そなたはもう寝るがよい。わしはペネロペイアと話してみる」

テレマコスが寝室に下がると、ペネロペイアが二階の部屋から降りてきました。女中たちも付き従い、食事の後片付けをはじめます。

すると、あの性悪女中メラントが、再びオデュッセウスに毒づきました。
「この乞食め、お前はまだここにいるのか。とっとと出て行かぬば、痛い目にあうぞ!」

「そなたは何に腹を立てて、わしを目の仇にするのだ。ボロを着ている乞食だからか。こう見えても、昔は裕福な貴族であったのだ」と、オデュッセウス。

それを聞いていたペネロペイアが、メラントを叱ります。
「そなたは何という厚かましい女、恐れを知らぬメス犬、わたしは気づいているのだよ。お前は、もはや自分の首でそれを償わなければならない」

メラントはタジタジになり、後ろに下がりました。

オデュッセウスとペネロペイア 20年ぶりの再会

ペネロペイアは、オデュッセウスに椅子をすすめました。じつに、これが20年ぶりの二人の再会です。

しかし、オデュッセウスは、まだ真実を話しません。
「オデュッセウス殿がトロイア出征の折、風に流されキプロス島にきた時、自分がもてなしたのだ」
と、語りました。

ペネロペイアは尋ねます。
「そなたを試すが、その時の夫はどうのような男であり、どのような衣服を身につけていたか。また、家来の様子はどうのようであったか?」

オデュッセウスが質問に一つ一つ答えると、ペネロペイアは懐かしさに涙ぐみました。
「客人よ、そなたの申す通りであった。今までは気の毒な人と思っておりましたが、これからはそなたはこの屋敷では、親しい大切な方となられましょう」

「奥方様、悲しむことをやめて、わしの言うことをお聞きください。オデュッセウス王は近くのテスプロトイ国で元気にしておられます。そこの国王は、たくさんの財宝とともにオデュッセウス王をこの国に帰すべく、船も船員もすでに用意していると私に語ってくれました。

今、オデュッセウス王は樫の神木によって、ゼウスの神意を伺うためにドドネに行っています。公然と帰るか、密かに帰るか、どちらが良いか知りたいとのことです。必ず、年内にはお戻りになられましょう」

「客人よ、願わくは、そなたの言葉どおりになってくれますように。それでも、私はもう夫は帰ってこないと思っています」

オデュッセウスの名の意味は「憎まれっ子」

涙を流しつつ、ペネロペイアは女中たちに命じました。
「誰かこの方の足を洗って差し上げなさい。寝所も整えなさい。明朝にはお風呂に入れて、油を塗ってあげなさい。テレマコスの傍らで食事ができるようにもしてあげなさい」

「そのようなことは必要ありません。もう、粗末な寝所にはなれておりますゆえ。足も洗ってもらわなくて構いません。どうしてもとおっしゃるなら、わしと同じような老女にしていただけたらと思います」

ペネロペイアは、その役を老女エウリュクレイアに申しつけました。

この老女はオデュッセウスが生まれた時、イタケを訪問していたオデュッセウスの祖父アウトリュコスに名前をつけてくれるように頼みました。
「アウトリュコス様、あなたの娘アンティクレイア様がお生みになられたこの子に名前をつけてあげてくださいますよう」

「よかろう。わしは若気のいたりで、今まで多くの人間に憎まれてきた(「オデュッサメノス」という意味)。されば、この子には、憎まれっ子(オデュッセウス)という名がよかろう」

オデュッセウスに気づく老女エウリュクレイア

老女エウリュクレイアは、金だらいを用意し、湯をたっぷり入れると客人の足を洗おうとしました。オデュッセウスは足の傷から素性がばれるのを避けるため、暗闇の方に身を向けました。祖父の国で狩りに出かけた時、猪の白い牙に足を傷つけられたことがあったからです。

しかし、老女は足を手にしたとたん傷に気づき、足を離してしまいました。足は金だらいに落ち、湯が飛び散ります。
「あなたは、ああ、間違いなくオデュッセウス様ですね」
老女は、喜びと悲しみに胸がいっぱいになりました。

すぐさまペネロペイアに知らせようとした老女を、オデュッセウスは引き止めます。
「婆やよ、今はまだ黙っていてくれ、すべての求婚者と悪しき女中を成敗するまでは。今はまだこっそりと計画を進めたいのだ」

老女エウリュクレイアは、流れてしまったお湯を取りにその場を離れました。

20羽のガチョウの夢と角と象牙の門

ペネロペイアは、苦しい胸のうちをオデュッセウスに語ります。
「客人よ、成人した息子テレマコスは、求婚者たちが財産を食いつぶしているのに苛立っています。そのため、私に実家に帰ってくれないかと頼むのです。

また、不吉な夢を見たので解いてくださらぬか。それは……

20羽のガチョウが小麦を食べているのです。私が心楽しく眺めていると、オオワシが飛んできて、ガチョウ全部の首をへし折って殺してしまうのです。

わたしが泣いていると、『ペネロペイアよ、安心するがよい。これは夢ではない。ガチョウは求婚者たち、私はそなたの夫であり、彼らを成敗するために帰ってきたのだ』と、オオワシが言うのです」
「奥方様、現実はまさにその通りになるでしょう」

「また、夢は二つの門のどちらかを通ってやってくるといいます。磨かれた角の門からは正夢が、象牙の門からは実現せぬ迷いごとが。この夢は、わたしには象牙の門を通ってきたとしか思われません。それに、もう時間がないのです。弓で十二の斧を射抜く競技を明日催します。それに勝った求婚者に嫁ぐつもりです」

オデュッセウスは、答えます。
「奥方様、その競技は実行してください。その競技の前にオデュッセウス王は帰ってこられましょうから」