1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈アートバイブル〉も、絵画でわかりやすい聖書です。

アキレウスの母テティス

ペーレウスに奪われるテティス
〈ペーレウスに奪われるテティス〉紀元前490年、エトルリア

テティスを諦めたゼウスとポセイドーン

「テティスよ、あなたは一人の若者の母となる。その若者が成人した暁には、父親の業をしのぎ、父より偉大な者として、後世にまで讃えられるだろう」
海神プロテウスは、テティスに予言ししました。このため、ゼウスとポセイドーンは、テティスを諦めました。それぞれ、オリュンポスの覇者と海の覇者の地位を明け渡すわけにはいきません。そこで、ゼウスは孫のペーレウスにテティスを抱くよう命じました。

テティスは、海神ネーレウスとドーリスの娘たち〈ネーレイデス〉の一人。ギリシャ中部のテッサリアの入り江に桃金嬢(テンニンカ)の木立があり、その中に洞窟があります。ここに毎日、全裸のテティスはイルカに乗って、昼寝にやってきます。

待ち伏せしていたペーレウスは、眠ったテティスを襲いました。テティスはすぐ目をさますと、鳥となり逃げようとしました。しかし、ペーレウスは離しません。次にテティスが大木となると、ペーレウスはしがみつきました。今度は、テティスは虎に変身しました。さすがのペーレウスも、虎には怖気づいて離れざるをえませんでした。

海神プロテウスの助言

ペーレウスは助言を求めて、海神プロテウスに祈りました。海に酒を注ぎ、羊の内臓を供え、香をたきました。
やがて、プロテウスは渦巻く波間からこう助言しました。
「ペーレウスよ、お前はテティスを花嫁にできるだろう。彼女が洞窟で眠っている時、強い綱で縛りあげるのだ。彼女がどんな姿に何度も変身しようと、元の姿に戻るまでじっと取り押さえているのだ」

いつものように、テティスが洞窟にやってきて昼寝をすると、ペーレウスはそっと女神を綱で縛り上げました。そのあと、彼女に覆いかぶさります。女神は目を覚まし、鳥、大木、虎に変身しましたが、綱で縛られた体は動きません。そんな女神に、ペーレウスは微笑んでキスをしました。ここに至り、女神もため息をつきました。
「私の負けだわ。これも、大神ゼウスの計らいなのでしょう」

テティスとペーレウスの結婚式
〈テティスとペーレウスの結婚式〉エルミタージュ美術館

テティスとペーレウスの結婚式

結婚式には、すべての神々が招待されました。が、争いの女神エリスだけは招かれませんでした。怒った女神は、一個の黄金のリンゴを宴の間に投げ入れました。そのリンゴには、札が付いていました。

  「一番美しい女神さまへ」

ゼウスの妃ヘーラー、美の女神アフロディーテ、知恵の女神アテーナは、それぞれ「黄金のリンゴは私のもの」と主張しました。ゼウスはこの厄介な審判を自分でくだすのをさけ、イーデー山で羊飼いをしている美しいパリスに任せてしまいました。

パリスはトロイアの第二王子として生まれましたが、将来トロイアを滅ぼす原因になるとの不吉な予言があり、イーデー山に追放されていたのです。

ヘーラー 「権力と富みはどうか」
アフロディーテ 「人間の中で一番美しい女性に恋させよう」
アテーナー 「男子たるもの、戦場での誉れと名声を」
三女神はそれぞれ自分に有利な審判をしてもらおうと、パリスに約束しました。

パリスの審判

トロイア戦争の勃発とアキレウス

人間なら女神たちの裸を前に恐れおののくところですが、ここがパリスらしい? アフロディーテに「黄金のリンゴ」を渡しました。こうして、今はメネラオスの妻となっていた「人間の中で一番美しい女性ヘレネー」をパリスは略奪し、トロイアに連れて帰ります。ヘレネーを奪回するべく、ギリシャ勢は出征、トロイア戦争の勃発です。

やがて、テティスとペーレウスの間に生まれたアキレウスがトロイア戦争に参戦し、その名声は天上界から下界にまで広く知られるようになりました。父よりもはるかに偉大になった予言が、成就されたのです。

テティス、アキレウスに武具を届ける
ベンジャミン・ウエスト〈テティス、アキレウスに武具を届ける〉
アキレウスの武具をつけた彼の親友パトロクロスがヘクトールに殺されて武具を奪われ、怒って出陣を決意するアキレウス。しかし、武具がない。テティスは、息子のために鍛冶の神ヘーパイストスに頼んで作ってもらった武具をアキレウスに届けます。『イリアス』の有名なシーンです。