1話5分で読めるギリシャ神話

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シーシュポスの岩

シーシュポスの岩
フレデリック・ジョン〈シーシュポス〉プロメテウスを思わせるこの高貴さ!

落ちていく岩を見ていたシーシュポスは無表情であった。
いや、唇のはしには微かな笑みが浮かんでした。

シーシュポスはテッサリア王アイオロスとエナレテーの息子。

シーシュポスがコリントスに住んでいた頃、ゼウスにさらわれたアイギーナを探していた父の河神アーソーポスがやってきた。シーシュポスは、館に涸れることのない泉を湧き出させることを条件にゼウスとアイギーナの居所を教えた。

父王アイオロスが死んで、兄弟のサルモーネウスがその後を継いだ。そのことに腹を立てたシーシュポスは、デルボイの神託をうかがった。
「おまえの姪との間に子ができれば、その子が復讐を果たすだろう」
そこで、彼はサルモーネウスの娘テューローを誘惑し、二人の子をもうけた。やがて、自分への愛情からではなく、父への怒りからだと知った彼女は、二人の子供を自ら殺した。

ゼウスは、河神アーソーポスへの告げ口とテューローの誘惑に怒り、死の神タナトスにシーシュポスを捉え、タルタロス(冥界よりさらに下にある世界)に連行するよう命じた。タナトスがやってきて、手錠をかけようした時、シーシュポスはたずねた。
「その手錠はどう使うのかね?亅
タナトスが自分の手で実際にやってみせると、まさにその時、シーシュポスはタナトスに手錠をかけて、そのまま館に幽閉してしまった。

困ったのは軍神アレースと冥界の王ハーデース。今までは戦いで多くの人々が死んでいったが、もう誰一人戦いで死ぬことがなくなってしまった。また、病や死刑で死ぬ人間もいない。アレースの面目はつぶれ、またハーデースも死人が出ないのでは冥界の王たる尊厳もない。そこで、アレースはシーシュポスをとらえ、タナトスを解放したのである。

死の神
ヤチェク・マルチェフスキ〈死の神〉

いずれ冥界に連行されると分かっていたシーシュポスは、妻メロペーに言っておいた。
「決して自分の葬式を出してはならない」
彼は冥界に連れていかれると、冥界の王ハーデースとその妻ペルセポネーに訴えた。
「葬式も出さない妻を懲らしめたいので、3日間だけ生き返らせてください」
許しをえたシーシュポスは生き返ると、自然の美しさ、食べる楽しみ、女との悦楽に冥界に戻ることはなかった。

この二度にわたる神々への不遜行為で、ゼウスの怒りも頂点に達した。ヘルメースをつかわし、シーシュポスをタルタロスへ連行し、罰をあたえた。

「シーシュポスの岩」である。

大きな岩を山頂に運びあげる、すると岩はふもとにころげ落ちる、また山頂に運びあげる、またころげ落ちる。この永遠に続く罰である。
しかし、シーシュポスはなぜ永遠の罰を受け入れているのであろうか?

落ちていく岩を見ていたシーシュポスは無表情であった。
いや、唇のはしには微かな笑みが浮かんでした。

シーシュポスにはこんなエピソードもある。
コリントスにいた頃、近くにヘルメースの子アウトリュコスが住んでいた。彼はたびたびシーシュポスの家畜を盗んでいた。しかも、決してバレなかった。茶色の牛は黒い牛に、角があるヤギは角のないヤギに変え、分からないようにしていたからだ。悪賢い父ヘルメースより授かった知恵だ。

困ったシーシュポスは一計を案じた。家畜のヒヅメに「SS」と刻印したのだ。いつものように、アウトリュコスが家畜を盗んでいった。シーシュポスは近所の人々を集めると、アウトリュコスに迫った。
「その牛のヒヅメを見せてもらおう」

はたして、「SS」の刻印があった。動かぬ証拠だ。しかし、アウトリュコスはなんだかんだ言い訳し、やがて人々と口論までし始めた。
その間に、シーシュポスは前からねらっていたアウトリュコスの娘アンティクレイアの部屋にいき、彼女を無理やり犯した。こうして、生まれたのがオデュッセウスである。ギリシャ一の智略者といわれたのは、シーシュポスとアウトリュコスの悪賢い血を受け継いだからであろうか。