1話5分で読めるギリシャ神話

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プロクネとピロメラ姉妹、蛮族の王テーレウス 3

ピロメラの災難は悲しい出来事でした。しかし、それ以上の不幸が姉プロクネを襲います。それは、決して人間として正常な神経ではできない所業でした。それに加担した妹ピロメラも、もはや正常な神経を失っていたとしか言えません。
可哀相なのは何も知らなかった幼いテーレウスとプロクネの息子イチュス。狂った恐ろしい母に抱きつこうとした幼子の思いは、決して報われることはありませんでした。

テーレウスにイチュスの首を見せるピロメラ
〈テーレウスにイチュスの首を見せるピロメラ〉

バッカスの祭りの夜、妹ピロメラを救い出す姉プロクネ

姉プロクネは、ただ一つのこと「報復」を思いつめていたのです。

時は2年目ごとのバッカスの祭りの夜、プロクネは頭にぶどうのツルを巻き、脇に鹿の皮を吊るし、杖を持って出かけました。彼女はバッカスの狂乱に見せかけて、妹ピロメラのいる羊小屋にやってきました。妹にもバッカスの信者と同じ服装をさせ救い出すと、館に連れて帰りました。

姉のプロクネの夫テーレススに強姦された妹ピロメラは、姉への裏切りに顔を上げることもできません。弁解するにも、舌を奪われた口は一言も話すことはできません。
いらだつ姉プロクネは
「涙などに用はないの、欲しいのは強い心、強い剣。ピロメラ、お前を暴力で犯した夫テーレウスを同じ目に合わせたい。舌を切り取るのもよし、命だって奪ってしまいたい。でも、まだ、その方法が思いつかない」

そこに、プロクネの息子イチュスがやってきました。
『そうだ、この手がある』
プロクネは自分の子を見るなり、恐ろしいことを思いついたのです。

テーレウスとプロクネの息子イチュス

「ああ、なんとお前はお父さんに似ているの」そう言ったプロクネ。その目は冷酷な眼差しを宿し、怒りに燃えていました。
「お母〜さん」
しかし、息子イチュスが首に抱きつくと、プロクネの心は母の優しさを取り戻し、涙も溢れてきました。プロクネはピロメラの方を見て、また息子を見ます。プロクネの心は復習と愛情に引き裂かれんばかりです。
「イチュスは甘えて『母さん』と言うし、ピロメラは『姉さん』と舌を奪われて口もきけない。ああ、私はどうしたらいいの。私を裏切った夫テーレウス。私はなんという男と結婚したのだろうか」

ついに意を決したプロクネは息子イチュスを抱き上げると、館の上階まで連れて行きました。息子も母の殺意を感じ、「お母さん、お母さん」と抱きつこうとしました。

しかし、母の手にした剣は、息子の脇腹を刺し貫きました。追ってきたピロメラも刃でイチュスの首を切り裂きました。それからも、二人は幼子を滅多刺しにしたのです。その後、人間の所業とは思えない、肉を切り分け串刺しにして焼き、鍋でグツグツ煮はじめました。

「お呼びの息子イチュスは、あなたの中にいますわ」

その後、プロクネは特別な晩餐だと夫テーレウスだけを食卓に招きました。食事も進み、テーレウスは満足な表情をしながら、妻プロクネに命じました。
「イチュスはどこだ。ここに呼んできてくれ。一緒に食べさせようではないか」
「お呼びの息子は、あなたの中にいますわ」
不気味な顔をしながら、ついに、プロクネはさっきから言いたくてたまらないことを言ってのけました。
「息子はどこにいるのだ、イチュスよ、ここへおいで」

テーレウスにイチュスの首を見せるピロメラ
〈テーレウスにイチュスの首を見せるピロメラ〉

テーレウスにイチュスの首を投げるピロメラ

その声に応えて出てきたのはイチュスではなく、イチュスの首を持った血まみれのピロメラでした。そして、彼女はその首をテーレウスに投げつけたのです。
『どうですか、息子のお味は?』
口を聞けないピロメラは、心底そう言えたらと思いました。

事の次第を悟ったテーレウス。
「ああ、腹を割いて息子を取り出したい!俺は、息子の墓なのか!」
そう叫ぶと、剣を抜きピロクネとピロメラ姉妹に切りかかりました。
しかし、それよりも早く二人は逃げ出し、まるで宙を飛んでいるかのように逃げだしました。それもそのはず、ピロクネとピロメラの二人は、鳥になって飛んでいたのです。しかも、一羽の鳥は、胸を血で真っ赤に染めています。

怒り狂ったテーレウスも、飛ぶように二羽の鳥を追いかけました。そして、彼もヤツガシラという鳥になってしまったのです。ヤツガシラの姿は、人であったテーレウスそのものの姿でした。

一説では、プロクネはナイチンゲールに、ピロメラはツバメになったということです。この災難を知ったプロクネとピロメラ姉妹の父親パンディオンは死期を早めたということです。

ヤツガシラ
〈ヤツガシラ〉

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