〈メネラオス、海の翁プロテウスを捕える〉
スパルタ王メネラオスは、ギリシャの英雄オデュッセウスの消息を尋ねてやって来た若者テレマコスに、自身の不思議な体験を語り始めます。
トロイア戦争後、故郷に戻ろうとしていたメネラオスの一行は、神々への供物を怠ったため、エジプト近くのパロス島で20日間も足止めされます。食料も尽きかけたころ、海の神プロテウスの娘エイドテエが彼らを助ける方法を教えてくれました。
メネラオスたちは、アザラシの皮をかぶってプロテウスを待ち伏せし、変身する彼を恐れず捕まえました。するとプロテウスは未来と過去の真実を語り始めます。
メネラオスのエジプト漂流
次の日、メネラオスはテレマコスに来訪の理由を尋ねました。「なんの目的で、このスパルタまでやってきたのか、話してくださらぬか」
「メネラオス王よ、あなたが父オデュッセウスの消息を何かご存じないかと思い、お訪ねしました。今、我が家では、母への求婚者たちに毎日財産を食いつぶされております」
「何ということであるか。いつか、オデュッセウスは彼らに死の運命を下すであろう」
そう言うと、メネラオスはエジプトに漂流した時のことを詳しく語りはじめました。
エジプトから一日の航海の距離に、パロスという島があります。
神々へ百頭の牛を生贄に捧げなかったメネラオス一行は、この島に20日間、止め置かれていました。船を運んでくれる順風が吹かなかったのです。食料も尽き、メネラオス一行は体力も尽きかけていました。
それを見て哀れに思った、海の翁プロテウスの娘エイドテエが、助けてくれることになったのです。
「エジプトの神である海の翁プロテウスを捕えることができれば、今後の旅の順路や、帰国の方法、そして故郷の屋敷で起こった善きことも、善からぬことも語ってくれましょう。安心なさい、プロテウスは真実しか語りません」
メネラオス、海の翁プロテウスを捕える
メネラオスは答えました。
「人間の身で神を捕えるなど、容易なことではありません。どうしたら、その海の翁を捕えることができましょうか」
「その翁は、真昼になると、うつろな岩屋で昼寝をします。その周りにはアザラシが群れをなして集まります。
翁はアザラシの数を確認し、眠りにつきます。私がアザラシの皮を四枚用意しますから、あなたと家来三人は、その皮で身を隠しなさい。アザラシの臭気は耐えがたいものですが、私がアンブロシアで作った香薬で、あなた方の鼻を守ります。
海の翁が眠りについたなら、四人でしっかり取り押さえなさい。翁は、さまざまなものに変身できます。獅子、大蛇、豹、大猪、流れる水や大木などに変わるでしょう。しかし恐れず、四人でしっかり取り押さえ続けなさい。そうすれば、翁は今後の真実を語ってくれるでしょう」
アガメムノンの暗殺とオデュッセウスの消息
海の翁プロテウスの娘エイドテエに教えられたとおりに、メネラオスたち四人は海の翁プロテウスを取り押さえ、今後の真実を教えてもらいました。その時、他のギリシャ勢が無事に帰国したかどうかも尋ねたのです。
海の翁は語りました。小アイアスの死、そしてアガメムノンは無事帰国したものの、アイギストスと妻クリュタイムネストラに謀殺されたことも。
メネラオスの胸は、兄の死によって張り裂けそうになりました。
「メネラオスよ、嘆いていても始まらぬ。エジプトに戻り、神々に百頭の牛を生贄として捧げたのち、早く帰る手立てを考えるのだ」
メネラオスは勇気を出して、気がかりなオデュッセウスの消息を尋ねました。
「その男が、仙女カリュプソの屋敷がある島の浜辺で泣いている姿を見たことがある。彼にはまだ船もなく、帰ることはできぬ。しかし、最後にはゼウスの娘ヘレネを妻としているお主は、いずれスパルタを離れ、楽園エリュシオンに行くことになろう」
海の翁プロテウスはそう語ると、海へと姿を消しました。
2枚目メネラオスが、エジプトで大活躍する!
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