レーニ〈ヒッポメネースの投げる黄金の林檎を拾うアタランテー〉
私と競争して勝った方のところへ褒美として参ります
「アタランテーよ、なんじは結婚してはならぬ。結婚すればその身は滅びるであろう」
彼女はこの神託に怯え、男をさけて、ひたすら狩猟に身を捧げていました。
アタランテーは女としも美しく、凛々しい男にも見えました。そのため、多くの求婚者をさけるため、ある条件を提示していました。
「私と競争して勝った方のところへ褒美として参ります。だが、もし私に負けた方は、罰として死んでいただきます」
その厳しい条件にもかかわらず、競争しようとする者が何人もいたのです。
ヒッポメネースは、最初は競争の審判をするつもりでいましたので、
「たかが女ひとりのために、そんな危険をおかすバカな者があろうか」と言っていました。
しかし、競争の時に長衣を脱いだアタランテーの姿を見ると、彼は考えを改めて言いました。
「私の誤りを許してください。諸君、君たちが求めている褒美を知らなかったのだ」
そして、ヒッポメネースは、みんな負ければいいと思いました。彼女に勝てそうな若者を見ると、嫉妬で狂いそうにもなりました。
また、実際に走るアタランテーはさらに美しく、足に翼が生えているかのようです。そよ風のごとく、水の上をすべるような走りです。若者たちはみんな競争に負けて、殺されてしまいました。
ヒッポメネースの参戦と黄金のリンゴ
「今度は、私が相手になりましょう。今までのようにはなりませんよ」と、ヒッポメネース。
アトランテーは思いました、
「どんな神さまが、この美しい若者をそそのかして命をすてるようになさるのだろう。この美しい方が、お気の毒。できれば、私より早く走ってくれますように」
ヒッポメネースは、アフロディテに祈りを捧げました。
「アフロディテさま、どうか、お助けくださいますように。あなた(恋)ゆえに、ここまできましたのですから」
女神は、その願いを聞き入れ、恵みをたれました。
アフロディテの島キュプロスの神殿の庭には、黄色の葉と枝と黄金の実をつけた1本のリンゴの木があります。女神はその実を3個もいで、ヒッポメネースにそっと渡し、その使い方も教えました。
ヒッポメネースvsアタランテー
いよいよ、スタートの時です。
最初は接戦でしたが、ヒッポメネースはだんだん息切れし、のどもカラカラです。アタランテーが前に出ました。このまま放される訳にはいきません。
ヒッポメネースは、ここで黄金のリンゴをアタランテーの前に投げました。彼女はビックリしましたが、そのリンゴを拾いました。その間に、ヒッポメネースは彼女を抜き去りました。
彼女は二倍のはやさで、また彼を抜きさりました。彼は2個目の黄金のリンゴを投げ、抜き返しました。
しかし、また追いつかれてしまいました。ゴールが迫ってきました。残る黄金のリンゴは1個です。
「女神さま、あなたの贈り物に力をお与えください」
ヒッポメネースは、最後の黄金のリンゴを思いっきり遠くに投げました。ゴールに近かったのですが、女神アフロディティの力もあり、アトランテーは黄金のリンゴを拾いに行きました。
こうしてヒッポメネースは勝利し、彼女を褒美として持ち帰ったのです。
ヒッポメネースとアタランテーの最後
こうして、二人は幸せに暮らすようになったのですが、ヒッポメネースは恋にうつつを抜かし、アフロディティにお礼をすることを忘れていました。
当然、女神は怒り、ふたりに女神キュベレーの機嫌を損なうようにしむけたのです。ふたりは神聖な女神キュベレーの神殿で、愛し合ってしまったのです。
女神キュベレーは激高して、二人をライオンに変えてしまいました。こうして、2匹のライオンはいつも女神の両側に侍っていたり、女神の二輪車を引いているのです。
〈女神キュベレーと二頭のライオン〉出典
※女神キュベレー(ギリシャ神話ではレア)はクロノスの妻で、ゼウスの母です。