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鷲と赤い大蛇〈イメージ〉

防壁に迫るトロイア軍

トロイア軍はギリシャ船陣の防壁前の濠まで迫っています。しかし、濠の両側には、先の尖った杭がびっしり打ちつけられています。

プリュダマスがヘクトルに提言します。
「ヘクトルよ、将軍たちよ、この濠は馬や戦車で渡るのは無謀というもの。われらは徒歩となり、ヘクトルについて行こうと思う」

その提言に、真っ先にヘクトルは戦車から飛び降りると、アイネイアス、サルペドンなど名だたる武将がみな同じように戦車から飛び降ります。

巨漢ヒュルタコスの子アシオス

ただ一人戦車から降りなかったヒュルタコスの子アシオス。彼は船陣の左翼に向かっています。ここを守っているのは、ラピタイ族の豪勇ポリュポイテスとレオンテウス。

彼らは、雨あられと石を投げ落としました。石はトロイア勢の兜と楯を打ち砕きます。対するトロイア勢は無数の弓矢で応戦します。

アシオスは悲痛な声を上げて、自分の腿を叩きました。
「父神ゼウスよ、あなたは嘘をつくのがお好きなことがよくわかった。ギリシャ勢がこれほどまでに我らの猛攻を防ぐとは思わなかった。わずか二人の軍でありながら、撃つか撃たれるかするまで、一歩も退かぬ気でいるとは」

ヘクトルのことしか頭にないゼウスは、アシオスの言葉など聞いてはいません。アシオスは、いずれイドメネウスの槍で命を落とすことになっています。(第13歌で)

赤い大蛇をつかんだ一羽の大鷲

ヘクトルとプリュダマスは防壁を破り、船に火を放とうと意気込んでいます。その時、一羽の大鷲が赤い大蛇を爪でつかんで飛んでいきました。蛇はまだ諦めず、鎌首をもち上げると鷲の胸と首を打ち付けています。

鷲は痛みに大蛇を放すと、大蛇は両軍の真ん中に落ちました。
「これは、何らかのゼウスの前兆」と、兵士たちは身震いします。

プリュダマスがヘクトルに近づいて、
「ヘクトルよ、あなたはいつも私の提言に反対する。いかにも、一市民の分際で、あなたの意見に逆らうことはできない。ただ、鷲と大蛇を見たからには、今は戦いを止めた方が良い。

鷲は赤蛇を巣に持ち帰れず、ヒナに与えることはできなかった。われらトロイア軍も、たとえ防壁を破ることはできても、多数の兵士の死は免れないだろう。どんな預言者もそう解くに違いない」

ヘクトルはプリュダマスを睨みながら、こう言います。
「私は気に入らぬ。そなたの頭は狂ったか。ゼウスは私に約束された。それを忘れよと言うのか。鷲が東から闇の西に向かって飛ぼうが、私は気にしない。

そなたは戦わず、一人で引き上げるのも勝手。ただ、他の兵士をそそのかし、引き上げさせようとすれば、私の槍で命を失うことになろう」

ヘクトルは防壁目指して進み、多数の者が歓声をあげながら後についていきます。ゼウスはイデ山から疾風を起こし、ヘクトルに加勢して船陣に砂を吹きかけます。