シーシュポス、イクシオン、ダナオスの娘たち

シーシュポス、頂上に運んだ岩は転げおちる

岩を山頂に運んだ瞬間、岩が地に転げ落ちてしまう永劫の罰を受けるシーシュポス。彼の罰は死の神タナトスをだまし、冥界の王ハーデースとの約束を守らなかったからです。
シーシュポスは自分が冥界に行くことがわかっていたので、奥さんに「葬式を出すな」と言っておきました。なぜなら、冥界のハーデースに「葬式も出さない妻を懲らしめたいので、3日間だけ生き返らせてくれ」と主張して生き返るためです。
しかし、冥界には戻らないという度胸の持ち主、それがシーシュポスなのです。
そんな知恵も度胸もあるシーシュポス、なぜこの永劫の罰を受け入れているのでしょうか?
アルベルト・カミュはこの罰のなかに(罰の原因の「罪」ではなく)人間の不条理を読み解き、『シーシュポスの神話』を著しました。
不条理とは何か?
『シーシュポスの神話』の訳者・清水徹氏はこう解説しています。
「不条理とは「なんとも筋道が通らない」「意味をなさない」「荒唐無稽な」という意味。論理や常識を破っているばかりか、それ自体として矛盾しているため、とても考えられないような状態や行為に対して言われる言葉である。それは、「不合理な」とか「非論理的な」というのとも違う」
たとえば、
水に濡れないつもりで、川の中に跳びこむ。
川に飛び込んでも濡れないと思っているか、濡れるとわかっているが濡れることはないと考えている。こんな矛盾した思考を持っているのが不条理な人間なのです。わかりますか?
シーシュポスに興味を持たれたら、読んでください。
シーシュポスの岩】を読む

イクシオン、火の車輪に蛇で括られる

冥界のさらに下にあるといわれるタンタロス。そこで、火が燃えさかる車輪にヘビで括られ、永劫にまわり続けるイクシオン。
イクシオンは自分の欲深さから、妻ディーアの父親を殺し「最初の親族殺し」となりました。ゼウスは彼のこの罪を他の神々に反対されながらも許し、オリュンポスの宴会に招いたのです。
イクシオンは飲みすぎて、なんとぜウスの妃ヘーラーに欲情。女好きのゼウスはすぐに気づき、雲で作った替え玉ネペレーを彼に抱かせます。その現行犯(へーラーとの姦淫ということ)でイクシオンをタルタロスに送ったのです。
「最初の親族殺し」の罪は赦されているので、このイクシオンの罰は重いと言えるのではないでしょうか。深読みすると、ゼウスはイクシオンがヘーラーに欲情するとわかっていて、「最初の親族殺し」の罪は問わなかったのかもしれません。
ところで、雲のネペレーでもイクシオンの子を生みました。その子が、女と酒好きで粗暴なケンタウロス族の祖先になったのです。
もっと詳しく知りたい方は読んでください。
イクシオンの車輪】を読む

ダナオスの娘たち、穴の開いた壺の水汲み

エジプト生まれのダナオスとアイギュプトスは兄弟です。ダナオスには50人の娘、アイギュプトスには50人の息子がいました。
ダナオスの娘たちは、アイギュプトスの息子たちの求婚を断りました。さらに父と娘たちは息子たちの横暴さが気に入らず、ギリシャまで逃げていきます。
しかし、息子たちはギリシャまで追いかけてきます。最後には、息子たちの圧力によって、娘たちと息子たちは結婚することになりました。納得できないダナオスと娘たち。父は娘たちに、初夜に息子たち全員を殺してしまう計画を立てました。
結果、49人の娘たちは49人の息子を殺しました。しかし、たった一人長女ヒュペルムネストラは相手のリュンケウスを殺すことはできません。彼女は彼との結婚を続けます。子孫にはダナエーとその子ペルセウスがいます。
こうして、ダナオスの娘たちは「夫殺しの罪」で、冥界で穴の開いた甕(かめ)に水を汲む罰を未来永劫受けています。
ギリシャ悲劇:救いを求める女たち】を読む