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ギリシャ悲劇『ヘレネ』の驚き
ギリシャ中の男に求婚された絶世の美女ヘレネ。そのヘレネが夫に選んだ男がメネラオスです。そんなメネラオスが、不男であるはずがありません。
たとえば、元乃木坂46の白石麻衣が選んだ男性だったら、それなりの男性だとは思いませんか。なのに、なぜメネラオスは映画『トロイ』をはじめ、みんなブサイクなおっさんなのでしょうか?
アキレウス役のブラッド・ピッド主演の映画『トロイ』。メネラオスは、美青年のパリスとの違いを出すために粗野なおっさんです(上の写真参照)。
アキレウスは別格として、ギリシャ総大将メネラオスの兄アガメムノン、知恵者オデュッセウス、武力の大アイアスと比べ、だたの部隊の大将の扱いです。
また、トロイア戦争はヘレネを取り戻すべく、つまりメネラオスの奥さんを取り戻すために起きた戦争です。ヘレネに何かあったら求婚者はすべて手助けするという密約がありました。
しかし、ヘレネが選んだメネラオスが粗野で人望もない男だったらトロイア戦争は起こらなかったのではないでしょうか。
エウリピデス作ギリシャ悲劇『ヘレネ』を読んでいて、今までの粗野なおっさん=メネラオス像に疑問をもちました。この劇では、ヘレネはメネラオスを真剣に愛しています。
パリスがトロイアに連れていったヘレネは偽物!
本物のヘレネは、ゼウスの使いヘルメスによって、エジプトの王宮に預けられていました。預かったのは誠実なプロテウス王。この王が死んで、その息子が今のテオクリュメノス王です。彼は、ヘレネに求婚しています。
そのため、テオクリュメノス王はエジプトにやってくるギリシャ人はみなヘレネを連れ戻しにきたと考え、皆殺しにしてしまいます。
一方、ヘレネは愛する夫メネラオスが生きていて、いずれ自分を助けにきてくれると密かな望みを持っています。
ところで、なぜパリスが連れ出したヘレネは雲でつくった偽物だったのでしょうか。
それは、パリスの審判で負けたゼウスの妃ヘラの意図です。いくら、パリスの審判で勝ったアフロディテ(ビーナス)が密かにヘレネをパリスに与えると約束していても、ヘラは夫ゼウスの娘ヘレネをパリスに渡すわけにはいかなかったからです。
ハミルトン〈ビーナスがヘレネをパリスに差し出す〉
雲で作った偽物のヘレネだったとしても、すでに世間ではヘレネは不貞の女だと思われています。
しかし、悲劇作者エウリピデスが本当はヘレネはトロイア戦争の原因ではないと思っていたかは、今では知る由もありません。ただ、世間の噂話を劇にしただけかもしれません。
ギリシャ悲劇『ヘレネ』夫メネラオスはイケメンか!
トロイア戦争後、メネラオス一行はエーゲ海を漂流しエジプトに流れ着きます。
そこで、妻ヘレネによく似た女性に出会います。実はその女性が本物のヘレネです。メネラオスは彼女からトロイアに連れ去らわれたのが雲でできた偽物と知らされます。
また、自分の今の憂いは、エジプト王テオクリュメノスの横恋慕だと伝えます。
ヘレネをスパルタに連れ戻したいメネラオス
ヘレネとメネラオスに必要なものは、エジプトからギリシャのスパルタまで逃げる快速艇。そこで、二人はエジプト王をだます大胆な行動に出ます。
メネラオスはメネラオスの家来を演じ、エジプト王に告げます。
「主人メネラオスは海で死にました。ギリシャでは、海で死んだ者の葬儀は海でする習わしです。ですから、船と葬儀に必要なものを援助してください」と。
一方、ヘレネもエジプト王にこう伝えます。
「夫メネラオスが死んでしまった今、王様の求婚を受け入れます。しかし、妻として夫の葬儀に同船させてください」
目の前にヘレネとの結婚をぶらさげられては、王が否と言うはずがありません。
最大の難関が一つ!
テオクリュメノス王には、預言者である妹テオノエがいます。彼女には、何でも見通す能力があります。メネラオスが生きていて、今このエジプトにいることも知っています。
彼女が王である兄を裏切るでしょうか。裏切りは死罪です。それでも、ヘレネは希望を持って、彼女に会いにいきます。
テオノエは王である兄を裏切れるか?
ヒロインはもちろんヘレネ。それを助け出す主人公がメネラオス。イケメンでなければなりません。
これがギリシャ悲劇『ヘレネ』です。
→ヘレネ[1]驚愕の真実!ヘレネはトロイアでなくエジプトにいた?[ギリシャ悲劇]