〈アガメムノンの黄金のマスク〉
アガメムノン、隊列を回り奮い立たせる
「ギリシャ勢よ、戦う気概を決して忘れるな!口ばかり達者で、腰抜けのギリシャ勢よ、お前たちは恥を知らぬのか!やがて、ゼウスは誓約を破ったトロイアに鉄槌を下されるであろう。聖都イリオスは滅びるであろう」
「イドメネウスよ、そなたの右に出るものはいないと感服していた。さあ、戦場に立って、その名に恥じぬ戦いをしてほしい」
イドメネウスはこれに答えて、
「トロイア方が誓約を破って攻めかかってきたのですから、彼らを待つのは死だけです」
アガメムノンは、次に多くの兵を有する両アイアスの隊列にくると
「両アイアスよ、自ら軍勢を鼓舞しているそなたたちに命ずることは何もないぞ」
次は、名だたる勇将を抱えている老ネストルの隊列である。ネストルは
「何人たりとも、自分の馬術、武勇を過信して、他に先駆けて戦おうとしてはならぬ。また、勝手に退いてもならぬ」
アガメムノンは、この老ネストルの勇ましさに、
「ご老体、あなたは誰も免れぬ老いに苦しむ身だ。くれぐれも、無理をなさらぬよう」
老ネストルは答えて
「わしは戦車隊に加わって作戦を練り、指令を下して統率するつもりでいる」
アガメムノンは、満足してアテナイの隊列に向かいます。
アテナイ隊列は、オデュッセウス
次は鬨の声も凄まじいアテナイの隊列。ここにはメネステウスとオデュッセウスがいます。
「メネステウスよ、オデュッセウスよ、そなたたちが他の部隊の様子をうかがって尻込みしているとは何事だ。第一線に立って、火のごとき激戦に身を投じることこそ、そなたらの務めではないか!」
オデュッセウスは、奮い立ちます。
「アガメムノン王よ、なんたる暴言!よろしい、トロイア勢第一線の強者と渡り合う姿をお目にかけよう」
「機略縦横のオデュッセウスよ、そなたに指図するつもりはわしにはない。わしの言ったことに落ち度があったようだ」
とアガメムノンはニンマリして、次の隊列に向かいます。
馬の扱い天下一品のディオメデスとステネロスの隊列
「ディオメデスよ、馬を狩る剛毅の者よ、戦いの様子をうかがって尻込みしているとは何事か。そなたの父は先頭に立って戦うのが本領であった。父テデュウスの偉業を忘れたか」
ディオメデスは沈黙していましたが、ステネロスは
「王よ、本当のことが言えるのに、偽りを言うのはやめていただきたい」と抗議しました。
すると、ディオメデスは
「戦友よ、わしの言うとおりにしてくれ。戦意を鼓舞しているアガメムノン王に対して、私は何も含むところはない。われらは戦いに専念しようではないか」と呟きました。
こうして、アガメムノンは自軍の各隊列を叱咤激励して回りました。
再び、戦いの火蓋が切られる!
両軍を激励している神は、ギリシャ軍は眼光輝くアテナ、トロイア軍はやはり軍神のアレス。さらに、争いの女神エリスが両軍の間を駆けめぐり、敵意を煽ります。
戦いの火蓋が切られると、青銅の鎧を着た兵士たちは盾を打ち合わせ、槍や剣が交差し、凄まじい声を上げます。いたるところから勝ち名乗りが上がります。
トロイア方が押されると、城壁の上からアポロン神も憤慨し、「奮起せよ、トロイアの兵よ。ギリシャ兵に後れをとってはならぬ。敵も同じ人間だ。ましては、あのアキレウスはいない。陣屋で苦い怒りをかみしめているのだ。今、奮起せず、いつ戦うのだ!」と叱咤しました。
両軍の死んだ将兵は数知れず、たちまち大地は血の海となりました。