〈ディオメデスとオデュッセウス〉
トロイア戦争でギリシア軍は、ヘクトルの猛攻によって大きな危機に陥っていました。総大将アガメムノンは不安のあまり眠れぬ夜を過ごし、老将ネストルに助言を求めます。
やがてオデュッセウスやディオメデスら名だたる英雄が集まり、夜の軍議が開かれました。そこで敵の動きを探るため、密かに敵陣へ潜入する作戦が決まります。
志願したディオメデスは知略に優れたオデュッセウスを相棒に選び、二人は夜の闇へと出発します。
そのとき女神アテナはアオサギを飛ばして吉兆を示し、二人の危険な任務を導いたのでした。
ヘクトルの猛威に震える夜、眠れぬアガメムノンとメネラオス
アガメムノンは、ヘクトルの猛威の前に心を震わせ、眠れぬ夜を過ごしていました。
このころ戦場では、トロイア軍の総大将ヘクトルが猛攻を続け、ギリシア軍は大きく押されていました。しかも最大の英雄アキレウスはアガメムノンとの争いのため戦いに加わっておらず、軍勢は大きな不利を背負っていたのです。
「ネストルならば、今の危機を救う策を一緒に考えてくれるかもしれない」
そう思い立ったアガメムノンは武装を整え、陣屋を出ることにしました。
同じく不安に取り憑かれていた弟メネラオスも眠れぬ夜を過ごしていました。
「この戦いはもともと妻ヘレネを奪還せんとしてトロイアへ来たのだ。それが今、われらはこの苦境に立たされている。兄者、部下の誰かにトロイア軍の様子を探りに出すつもりか」
アガメムノンは答えました。
「メネラオスよ、どうやらゼウスはヘクトルの備えた生贄の方がお気に召したようだ。アイアスとイドメネウスを呼んできてくれ。わしはネストルを呼びに行く。あとで警備の場所で落ち合おう」
こうして兄弟は、暗い夜の軍営へ歩み出しました。
老将ネストルの助言と夜の軍議
アガメムノンは老ネストルの陣屋を訪れました。
「わしだ。ゼウスの神意のためか、わしには安らかな眠りが降りてこぬ。わが軍の苦難が心から離れぬのだ。心臓が飛び出しそうで、震えが止まらぬ。お主もそうなら、一緒に警備の場所に来てもらいたい。いつトロイア軍が攻めてこぬとも限らぬからな。また見張りが眠りこけていては困るからな」
老ネストルはそれに答えました。
「ゼウスがヘクトルの思い通りになさるはずはない。アキレウスが激しい怒りを鎮めて戦いに戻りさえすれば、今度はヘクトルが多くの悩みを抱えて苦しむことになるだろう。
アガメムノンよ、喜んでお伴しよう。オデュッセウス、ディオメデス、アイアス、イドメネウスらも起こそうではないか。ところでメネラオスはどうした。彼こそ一人ずつ訪ね、頭を下げて頼む労をとるべきであろう」
アガメムノンは答えました。
「メネラオスも眠られず、わしのところへやって来た。すでにアイアスとイドメネウスを呼びにやっている」
こうしてアガメムノンと老ネストルは、オデュッセウスとディオメデスの陣屋へ向かいました。
やがて名だたる武将たちが警備の場所に集まり、夜の軍議が開かれました。
危険な夜の任務、オデュッセウスとディオメデスの潜入
老ネストルは提案しました。
「誰か敵情視察に出てくれぬか。ヘクトルをはじめトロイア勢が今後どのような計画を立てているのか知りたいのだ」
するとディオメデスがそれに答えました。
「わしは潜入したくて胸がうずいていた。しかし一人では考えが狭くなり、行動の選択肢も少ない。誰か、わしと一緒に行ってくれぬか」
オデュッセウスをはじめ、多くの武将が名乗りを上げました。ディオメデスはその中から、知略縦横で知られるオデュッセウスを選びました。
二人は武具に身を固めると、静かに陣営を離れ、夜の闇の中へと消えていきました。
そのとき女神アテナは、一羽のアオサギを二人の側に飛ばしました。闇夜のため鳥の姿は見えませんが、その鳴き声だけははっきりと聞こえます。二人はそれを女神のしるしと受け取り、アテナに祈りを捧げて感謝しました。
こうしてギリシア軍の二人の英雄は、危険な夜の潜入任務へと踏み出したのです。
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