〈ヘラに力を貸す眠りの神ヒュプノス〉
ヘラはゼウスを欺くため、愛欲の力を秘めたアフロディテの帯ケストスを借り、ゼウスの心を惑わせました。
ゼウスはヘラへの情熱に抗えず彼女と交わり、その後深い眠りに落ちてしまいます。
眠りの神ヒュプノスはこの機会を利用し、ポセイドンに知らせました。ポセイドンはただちにギリシャ軍を鼓舞して戦場へ介入します。
奮い立ったギリシャ軍の中で、大アイアスはヘクトルと激突しました。そして巨大な石を投げつけ、ヘクトルを気絶させます。
トロイア軍は必死に彼を救い出しますが、総大将を失った軍は動揺しました。この機を逃さず、ギリシャ軍は勢いよく反撃を開始したのです。
愛の帯ケストス、ゼウスを惑わせる
ヘラはまずゼウスに、ここへ来た理由を語りました。
「オケアノスとテテュスに会いに行く許しを、あなたから得るためにここへ参りました」
しかしアフロディテの〈ケストス〉の力は絶大でした。〈愛欲〉と〈慕情〉、さらに人の心を惑わせる〈口説き〉の力を宿した帯の威力によって、ゼウスの心はたちまち揺さぶられます。
ゼウスはヘラに言いました。
「会いに行くのは明日でもよいではないか。今はここで、愛の喜びを味わおうではないか」
そしてゼウスは、胸に満ちる情熱を抑えきれず、誇らしげに語ります。
「ペルセウスの母ダナエ、ヘラクレスの母アルクメネ、デュオニュソスの母セメレ、さらにはアポロンの母レトに抱いた情よりも、いや、初めてヘラを抱いたときよりも、今この瞬間のヘラへの想いは、どうにもならぬほど強いのだ」
ヘラは慎み深く答えました。
「ここで愛の契りを結べば、高所ゆえオリュンポスの神々に見られてしまいます。そうなれば恥ずかしくて館へ帰れません。どこか人目につかぬ寝所はありませんか」
するとゼウスは笑いながら言いました。
「見られることなど心配はいらぬ。わしが黄金の雲で周囲を覆い、誰の目にも触れぬようにしてやろう」
こうしてゼウスはヘラと交わり、満ち足りた心のまま深い眠りへと落ちていきました。すべてはヘラの思惑どおりでした。
ヒュプノス、ポセイドンに知らせる
ゼウスを眠らせた眠りの神ヒュプノスは、すぐに地上へ降り立ち、海神ポセイドンのもとへ向かいました。
「ヘラがゼウスと愛の交わりを終えた後、私はゼウスに深い眠りをふりかけておいた。ポセイドンよ、今こそギリシャ軍を奮い立たせ、彼らに勝利の栄誉を与える時だ」
これを聞いたポセイドンは戦場の第一線へ躍り出ました。
「アキレウスがいなくとも恐れるな。最大の盾を輝かせ、兜をかぶり、槍を手に突撃するのだ。わしは先頭に立つ!」
その声に呼応して、アガメムノン、オデュッセウス、ディオメデスらも傷を押して戦列を整え、兵士たちを鼓舞しました。
大アイアスの巨石、ヘクトルを打つ
戦場では、トロイア軍を率いるヘクトルが再び前線に現れました。
彼は真っ先に大アイアスへ槍を投げつけます。しかし槍は盾に防がれ、決定打にはなりませんでした。
その直後、大アイアスは巨大な石を持ち上げると、渾身の力でヘクトルに投げつけました。
石はヘクトルの首と胸の間に激しく当たり、彼はその場に倒れ込み、意識を失ってしまいます。
ギリシャ兵たちはここぞとばかりに槍を投げ、ヘクトルを討ち取ろうとしました。しかしトロイア軍の勇将たちが素早く動きます。アイネイアス、アゲノル、サルペドン、グラウコスらが盾を並べてヘクトルを守り、彼を戦車へ運び出しました。
やがて彼らは清きクサントス河の岸へたどり着きます。そこでヘクトルを戦車から降ろし、水をかけました。
ヘクトルは一度目を開き、膝をついて座りました。しかしすぐに黒い血を吐き、再び気を失ってしまいます。
ヘクトル倒れ、戦局が揺らぐ
こうしてトロイア軍の総大将ヘクトルは戦場から退きました。
この機を逃すまいと、ギリシャ軍は一斉に攻勢へ転じます。ヘクトルを欠いたトロイア軍に襲いかかり、戦いはさらに白熱しました。
槍と剣がぶつかり合い、両軍の名だたる武将たちが次々と命を落としていきます。戦場は血に染まり、勝敗の行方はまだ誰にも見えませんでした。
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