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パリスを諌めるヘクトル〈ヘクトル〉

あらすじ

瀕死だったヘクトルは、アポロンの力によって再び立ち上がります。これを見たギリシャ軍は神の介入を悟り動揺しました。

アポロンは濠を踏み崩してトロイア軍の進路を開き、彼らはギリシャ軍の船陣へ一気に迫ります。追い詰められたギリシャ軍は神々に助けを祈り、老ネストルもゼウスに救いを求めました。

その頃パトロクロスは戦況の悪化に気づき、アキレウスに出陣を進言する決意を固めます。

一方、テウクロスの弓はゼウスによって弦を断たれ、戦いはさらに混迷を深めました。

ヘクトルは兵士たちを鼓舞し、トロイア軍は船に火を放とうと迫ります。こうして両軍は決死の覚悟で激突しました。

神の力でよみがえるヘクトル

アポロンは急いで地上へ降り立ち、ようやく意識を取り戻したヘクトルに告げました。
「ゼウスはこのアポロンを遣わされた。もはや恐れることはない。私が先頭に立ち、ギリシャ軍を潰走させてやろう」

その光景を見ていたギリシャ軍のアンドライモンの子トアスは、驚きを隠せませんでした。
「なんという奇跡を見たことか。死を免れてヘクトルが再び立ち上がった。これは神の助けに違いない。ゼウスの神慮なしには考えられぬことだ。今は私の意見を聞いてほしい。大部分の軍勢は船陣へ退かせ、精鋭だけでヘクトルを食い止めてみよう」

こうして戦場に残ったのは、大アイアス、テウクロス、イドメネウス、メリオネス、メゲスらの勇将たちでした。

しかしヘクトルの軍勢の先頭に立つアポロンが、ギリシャ勢の心に恐怖を植えつけます。戦意を失ったギリシャ軍は多くの武将を討たれ、防壁の内へ敗走せざるを得ませんでした。

さらにアポロンは深い濠の堤をいとも簡単に踏み崩し、トロイア軍のための通路を開きます。トロイア軍はその道を通って、一気に船陣へとなだれ込みました。

船陣の前で追い詰められるギリシャ軍

ギリシャ勢は船のそばで踏みとどまるのがやっとの状態でした。兵士たちはそれぞれ神々に助けを求めます。老ネストルさえも両手を上げて祈りました。

「ゼウスよ、オリュンポスの神々よ、もし我らに無事の帰国を約束してくださったのであれば、今日このような無残な運命からお救いください」

ゼウスはその祈りを聞き入れ、天空に凄まじい雷を鳴らしました。雷鳴を聞いたトロイア軍はさらに戦意を燃やし、ギリシャ軍へ激しく襲いかかります。

パトロクロス、アキレウスのもとへ向かう

そのころ、戦友エウリュピュロスの手当てをしていたパトロクロスは、トロイア軍が防壁に迫る様子に気づきました。

「エウリュピュロスよ、いつまでもここにいるわけにはいかぬようだ。急いでアキレウスのもとへ戻り、戦うよう進言しよう」

こうしてパトロクロスは、運命の転機となる決断へと歩み始めます。

ゼウス、テウクロスの弓を封じる

数の上ではギリシャ軍が優勢でしたが、戦いはなお拮抗していました。

このときヘクトルは再び大アイアスへ向かって突進します。戦いの中で、ヘクトルの従兄弟カレトルが倒れ、また大アイアスの従者リュコプロンも槍に討たれました。

大アイアスは兄弟に叫びます。
「テウクロスよ、アポロンから授かった弓はどこへやった!」

テウクロスはすぐに兄のそばへ駆け寄り、矢を放ちました。矢はトロイア兵の首を射抜き、彼はさらにヘクトルへ狙いを定めます。

しかしそれをゼウスが見逃すはずはありませんでした。ゼウスはテウクロスの弓弦を断ち切ります。矢はあらぬ方向へ飛び、弓はテウクロスの手から落ちました。

「なんということだ。神が私の弓を壊してしまった。今朝、新しい弦に張り替えたばかりだというのに」

大アイアスは弟に言いました。
「兄弟よ、神が弓を封じられたのなら、槍で戦うしかあるまい」

ヘクトル、人生最大の栄光の時

これを見たヘクトルは、トロイア兵を大声で鼓舞します。
「見たか、ゼウスが弓の名手の矢をそらしたのを。神々は我らトロイアの味方だ。さあ、隊列を整え、一団となって戦え!」

一方、大アイアスも兵士たちを激しく叱咤しました。
「今こそ我らがここで滅びるか、それとも船団を守り抜くかを決する時だ。船に火が放たれたなら、徒歩で祖国へ帰れると思うのか。もはや腕力で戦うしかない。これに勝る策などないのだ!」

ギリシャ軍は誰一人退こうとはせず、討ち死にを覚悟して戦いました。一方トロイア軍は船に火を放ち、ギリシャ軍を滅ぼそうと決意しています。

こうして両軍の戦いは、これまでにないほど激しさを増していきました。

ゼウスは今、ヘクトル一人に栄光を与えようとしていました。しかしそれは同時に、やがて訪れる運命への序章でもありました。アテナがアキレウスの力を借りて、ヘクトルの最後の日を早めようとしていたからです。