ルニョー〈アウトメドンと不死の駿馬クサントスとバリオス〉
ギリシャ軍が窮地に立たされる中、パトロクロスはアキレウスに出陣を願い出ました。アキレウスは自らは戦わないものの、武具とミュルミドネス軍を貸し与えます。
ただし敵を船陣から追い払ったらすぐ戻るよう厳しく忠告しました。
パトロクロスはアキレウスの武具をまとって戦場へ向かい、ミュルミドネス勢を率いてトロイア軍を撃退します。
戦局は一気にギリシャ軍へ傾きました。やがてパトロクロスはゼウスの子リュキエ王サルペドンと激突します。両者の槍が交わる激戦の末、パトロクロスの槍がサルペドンの胸を貫きました。
こうしてゼウスの子である英雄サルペドンは戦場に倒れ、戦いはさらに激しさを増していきます。
目次
義憤に燃えるパトロクロス、ついにアキレウスへ訴える
アキレウスは驚いて問いかけました。
「パトロクロスよ、どうしたのだ。小娘のように涙を流して。何か私に伝えたいことでもあるのか」
パトロクロスは涙をこらえながら答えます。
「どうか怒らないでください、アキレウスよ。ギリシャ勢を襲った苦難は、あまりにも激しいのです。だからどうか、今あなたが抱いている怒りを忘れてください。
神のお告げか、あるいはゼウスの伝言を母神テティス様から聞いて、あなたは戦わないのですか。
もしそうでないなら、どうか私にミュルミドネス勢を貸してください。私が戦場へ向かいます。またあなたの武具を貸してください。トロイア軍はあなたが出陣したと思い、恐れて退くかもしれません。そうすればギリシャ勢も、しばし息をつけるでしょう」
アキレウスの決断と厳しい忠告
アキレウスはしばらく考え、こう答えました。
「ゼウスの命令を母から聞いたわけではない。私はただ、アガメムノンから侮辱されたことに怒っているだけだ。しかし、いつまでも怒り続けるわけにもいくまい。
パトロクロスよ、そなたは私の武具を身につけ、ミュルミドネス勢を率いて戦場へ向かえ。しかしよく覚えておくのだ。敵を船陣から追い払ったなら、すぐ戻れ。調子に乗ってトロイアの城門まで追撃してはならない。オリュンポスの神々、とりわけアポロンが介入するかもしれぬ」
この忠告は、後の悲劇を暗示する言葉でもありました。
船に火が放たれる、パトロクロス出陣
その頃、トロイア軍はついにギリシャ船に火を放ち、炎はたちまち船を包み込みます。
アキレウスは叫びました。
「立て、パトロクロスよ。燃え盛る火が見える。船が焼け落ちれば、我らに逃げ道はなくなる。急ぎ武具をつけよ。兵は私が集める」
パトロクロスはアキレウスの武具を身につけ、槍を二本手に取りました。しかしアキレウスの名槍だけは持ちませんでした。その槍はペリオン山のトネリコから作られた特別なもので、アキレウスしか扱えないからです。
御者アウトメドンは戦車に馬をつなぎます。不死の名馬クサントスとバリオス、そして控えとして名馬ペダソスを添えました。ただしペダソスだけは死すべき運命の馬でした。
ミュルミドネス軍、ついに戦場へ
アキレウスは五隊からなるミュルミドネス軍を整列させます。
第一隊 メネスティオス(河神スペルケイオスの子)
第二隊 エウドロス(ヘルメスの子)
第三隊 ペイサンドロス(槍の達人)
第四隊 老ポイニクス(アキレウスの養育者)
第五隊 アルキメドン
軍勢の先頭にはパトロクロスと御者アウトメドンが立ちました。
アキレウスは大切にしまっていた杯を取り出し、ゼウスへ祈ります。
「大神ゼウスよ、戦友を戦場へ送り出します。どうか彼に栄誉を与え、勇気を授けてください。そして船陣からトロイア軍を追い払った後、どうか無事に帰還させてください」
ゼウスは祈りの前半は聞き入れましたが、後半は受け入れませんでした。
パトロクロス、戦場で猛威を振るう
パトロクロスとミュルミドネス軍が戦場へ到着すると、ただちにトロイア軍へ襲いかかりました。
「ミュルミドネス勢よ、男らしく戦え。己の武勇を思い出せ。ペレウスの子アキレウスの名を輝かせよう。そうすればアガメムノンも自らの過ちに気づくだろう」
トロイア軍はアキレウスが出陣したと錯覚し、戦列が大きく乱れます。
パトロクロスは槍を投げ、敵将ピュライクメスの右肩を貫きました。トロイア軍は恐れおののき、船陣から退き始めます。火は消され、ギリシャ軍は勢いを取り戻しました。
ゼウスの子サルペドン、決戦へ
パトロクロスは逃げる敵を追い、城門へ向かう軍勢を次々と打ち倒していきます。
それを見たゼウスの子、リュキエ王サルペドンは自軍を叱責しました。
「恥を知れ、リュキエ勢よ。どこへ逃げる。今こそ戦う時だ。あの男には私が立ち向かう。あの男が何者か、この目で確かめてやろう」
サルペドンは戦車から飛び降ります。パトロクロスもまた戦車を降りました。
二人の英雄が向き合ったその時、天上ではゼウスが悲しげに言いました。
「ヘラよ、悲しいことではないか。我が子サルペドンがパトロクロスに討たれる運命にあるとは」
ヘラは冷静に答えます。
「死すべき者の運命を変えるおつもりですか。もしサルペドンを救えば、他の神々もまた自分の子を救おうとするでしょう。彼が討たれた後、〈死〉と〈眠り〉の神に命じ、故郷リュキエへ運ばせてやりなさい」
ゼウスは異議を唱えず、血の雨を大地へ降らせました。
ゼウスの子サルペドン、戦死
戦いが始まりました。
パトロクロスの槍は、まずサルペドンの従者トラシュメロスを突き刺します。サルペドンの槍はパトロクロスを外れ、戦車の馬ペダソスに命中しました。ペダソスは三頭の馬の中で唯一、死すべき運命の馬だったのです。
再び槍が投げられました。
パトロクロスの槍はサルペドンの胸を貫き、彼は地面へと倒れました。
息絶える前、サルペドンは同郷の友グラウコスへ言いました。
「グラウコスよ……私の武具をギリシャ勢に奪われぬよう守ってくれ……」
こうしてゼウスの子サルペドンは戦場に倒れました。
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