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パトロクロスの死を嘆くアキレウスハミルトン〈パトロクロスの死を嘆くアキレウス〉

あらすじ

アンティロコスからパトロクロス戦死の報せを受けたアキレウスは、灰をかぶって地に伏し、激しく嘆き悲しみました。

その悲痛な声は海の底まで届き、母テティスとネレイデスたちは急ぎ戦場へ向かいます。テティスは息子を慰めますが、アキレウスは友の仇ヘクトルを討つ決意を固めました。

テティスは新しい武具を作らせるためオリュンポスへ向かいます。

一方戦場ではパトロクロスの遺体を巡る激戦が続きます。ヘラの命でイリスがアキレウスを呼び出し、彼は武具を持たぬまま塹壕に立って叫びました。

アテナが神の威光を与えるとトロイア軍は恐怖に陥り、その隙にギリシャ軍はついにパトロクロスの遺体を取り戻します。

アンティロコスの知らせに慟哭するアキレウス

アキレウスは遠くから戦場を眺めながら言いました。
「なんということだ。我が軍は船陣を目指して敗走している。かつて母上が語った不吉な言葉を思い出す。『私がまだ生きているうちに、ミュルミドネス第一の勇者が死ぬ』と。もしやパトロクロスは、すでに死んだのではあるまいか」

そこへ、息を切らしたアンティロコスが駆けつけます。
「アキレウスよ、辛い報せだが聞いてくれ。パトロクロスは討たれた。武具はヘクトルに奪われ、今も遺体を巡る激しい戦いが続いている」

予感していたとはいえ、そして神の定めが覆らぬと分かっていても、実際にその死を告げられたアキレウスは、両手で黒ずんだ灰を頭や体に振りかけ、地に身を投げて嘆き悲しみました。

アンティロコスはその姿を見て、アキレウスが自害するのではないかと恐れ、彼の手をしっかりと握って離しませんでした。

その嘆きは、遠く海の底まで届きます。海の洞窟にいた母テティスは、息子の悲痛な叫びを聞いて悲しみの声をあげました。すると海のニンフ、ネレイデスたちが集まってきます。

テティスは言いました。
「わが子に何が起きたのか、わたしは確かめに行きます。たとえ何の役にも立たなくとも」

海の女神テティス、悲しむ息子のもとへ

テティスとネレイデスたちは洞窟を出発しました。海は裂けるように道を開き、女神たちは波を越えて進みます。

やがてトロイアの地に着くと、テティスはアキレウスの傍に立ち、わが子の頭を抱きかかえました。

「わが子よ、どうして泣いているのですか。ゼウスはあなたの願いをかなえ、ギリシャ軍はみなあなたの不在を悔いています。今まさに敗走しているではありませんか」

しかしアキレウスは答えました。
「母上、パトロクロスが死んだ今、それを喜ぶことなどできません。ヘクトルがその報いを受けるまでは、生きている気がしません。たとえその後すぐに私が死ぬ運命であろうとも」

運命を知るテティス、武具を求めてオリュンポスへ

テティスは静かに言いました。
「わが子よ、辛いことですが、あなたは長く生きることはできません。ヘクトルが死ねば、その後すぐにあなたの死が待っています」

アキレウスは答えます。
「かくなる上は、最愛の友を討ったヘクトルを求めて出陣します。たとえ死ぬ運命であろうとも」

「わかっています。しかし、私が戻るまでは戦場へ出てはいけません。明朝、鍛冶の神ヘパイストスに新しい武具を作らせ、それを持って戻ってきます」

そう言うとテティスはオリュンポスへ向かいました。ネレイデスには海の洞窟へ戻り、父ネレウスに事情を伝えるよう頼みました。

遺体を巡る死闘の中、ヘラ、イリスを遣わす

そのころ戦場では、ヘクトルとトロイア勢が三度パトロクロスの両足をつかみ、遺体を引き出そうとしていました。しかし両アイアスが三度それを押し返します。

それでもこのままでは遺体はいずれトロイア軍の手に渡るだろうと、オリュンポスから見ていたヘラは判断しました。そこで虹の神イリスをアキレウスのもとへ送りました。

「ゼウスの妃ヘラからの伝言です。アキレウスよ、パトロクロスの遺体を守りなさい。もしトロイア軍に渡れば、それはあなたの恥辱となります」

アキレウスは答えました。
「イリスよ、私には武具がありません。母テティスがヘパイストスの武具を持って戻るまで、戦場に出てはならぬと言いました」

イリスは言いました。
「承知しています。そのままでよいのです。塹壕の縁に立ち、あなたの姿をトロイア軍に見せなさい。彼らは戦慄し、ギリシャ軍は息をつくことができるでしょう」

そう言うと、イリスは風のように立ち去りました。

女神アテナ、アキレウスに神の威光を授ける

アキレウスは立ち上がり、塹壕の縁へ向かいました。そのとき女神アテナが降り立ち、彼の周囲を黄金の雲で包みます。さらにその頭上に燃え立つ光を掲げ、まるで炎の柱のように輝かせました。

アキレウスが大声で叫ぶと、アテナも共に叫びます。

その声は戦場を震わせました。トロイア軍は恐怖に襲われ、戦車を引く馬さえ怯えて後ずさります。アキレウスが三度叫ぶと、トロイア軍は大混乱に陥り、その騒乱の中で十二人の勇士が自らの戦車や槍によって倒れるほどでした。

その隙にギリシャ軍はパトロクロスの遺体を担架に乗せ、ついに戦場から運び出すことに成功します。

ヘラ、戦いを終わらせるため太陽を沈める

戦いはなお続いていましたが、ヘラは太陽神ヘリオスに無理を言って、日を早く沈めさせました。夜が訪れれば、戦いは休止されるからです。

こうしてその日、英雄パトロクロスの遺体はようやくギリシャ軍の手に取り戻されました。

しかしこの出来事こそが、後にトロイア戦争の運命を大きく変える――アキレウスの復讐の始まりだったのです。