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ゼウス、惑わし夢を送る

あらすじ

大神ゼウスは、海の女神テティスの願いをかなえるため、夢の神オネイロスをアガメムノンのもとへ送りました。

夢の中でゼウスの神託を告げられたアガメムノンは、トロイアを今こそ攻め落とせると信じます。しかし兵士たちの士気を試そうと、集会ではあえて「故国へ帰ろう」と逆のことを言いました。

ところが長い戦いに疲れていた兵士たちは、この言葉を真に受けて船へ向かい、帰国の準備を始めてしまいます。

この様子を見たゼウスの妃ヘラは驚き、女神アテナを地上へ送り、英雄オデュッセウスに兵士たちを引き止めるよう命じるのでした。

ゼウスの策略――夢の神オネイロスを遣わす

(アキレウスの面目を立てるには、どうしたものだろう……)

大神ゼウスは、海の女神テティスの願いをかなえるため、思案に暮れていました。
やがて一つの策を思いつきます。

それは、夢の神オネイロスを呼び、ギリシャ軍の総大将アガメムノンのもとへ送り込むことでした。

ゼウスは命じます。

「よいか、アガメムノンにこう告げよ。
今こそトロイアを攻め落とす時だと。オリュンポスの神々も皆、これに異存はない。
妃ヘラの切なる願いも、ついにかなうのだとな」

しかしこれは、偽りの言葉でした。

ゼウスはまだ、トロイアを陥落させるつもりはありません。
むしろアキレウスの名誉を取り戻すため、ギリシャ軍を苦境に陥れようとしていたのです。

夢の神オネイロスは、アガメムノンが最も信頼する老将ネストルの姿を借りて現れました。

そして眠るアガメムノンの枕元に立ち、こう告げます。

「アガメムノンよ、馬を御する王よ。
長き戦いの末、今こそトロイアは陥落する。
ただちに全軍を武装させよ」

夢から覚めたアガメムノンは、この夢をゼウスの神託と信じ込みます。

彼はすぐに伝令を走らせ、ギリシャ軍の集会を開くよう命じました。
自らは王笏を手にし、青銅の武具をまとって陣営へ向かったのです。

王の試み――ギリシャ軍の士気を試す策

しかしアガメムノンは、まず長老たちに夢の内容を語ったあと、兵士たちの前ではまったく逆のことを言いました。

兵士たちの士気を試すためです。

「勇士たちよ。
かつてゼウスは、我らにトロイア陥落を約束された。だが九年もの歳月が過ぎた今、
我らに帰国せよと命じているようだ。

大軍を率いる我らが、数で劣るトロイア勢を打ち破れなかったのだ。
このことは後の世に聞かれれば恥であろう。

だが、わしの言うことを聞くがよい。
船に乗り、故国へ帰ろうではないか」

ところが――

アガメムノンの思惑とは裏腹に、兵士たちはこの言葉を真に受けてしまいます。

彼らは歓声をあげながら海岸へ走り、軍船を海へ引き下ろし、帰り支度を始めてしまいました。

長い戦いに疲れきった兵士たちは、帰国の言葉を待ち望んでいたのです。

ヘラの怒り――女神アテナを地上へ遣わす

その光景をオリュンポスから見ていたゼウスの妃ヘラは、思わず声をあげました。

「なんという情けないことか!」

ヘラはすぐに女神アテナを呼びます。

「アテナよ、このありさまを見なさい。
ギリシャ軍は、あのヘレネを取り戻さぬまま故国へ帰ろうとしている。

そんなことになれば、トロイア人は永遠に自慢するであろう。
急いで地上に降り、兵士たちを引き止めておくれ」

アテナはすぐさまオリュンポスを駆け下りました。

戦場に降り立つと、そこには悲しみに沈んだ英雄が一人立っています。

それは、知恵に富む英雄
オデュッセウスでした。

アテナは彼のそばに立ち、声をかけます。

「オデュッセウスよ。
そなたたちは、なんという体たらくか。

あのヘレネをトロイア人の自慢話にしたまま帰国するつもりか。
さあ、急いで兵士たちを引き止めよ。船に乗せてはならぬ」

オデュッセウスは、これが女神の言葉であると悟りました。

彼はすぐにアガメムノンから王笏を借り受け、
ギリシャ軍の軍船へ向かって走り出したのです。