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スズカケの樹と大蛇

〈イメージ:スズカケの樹と大蛇〉

あらすじ

帰国しようとするギリシャ軍を止めるため、知恵の英雄オデュッセウスは兵士たちを叱咤し、集会へと呼び戻しました。

そこへ口汚く王を罵る兵士テルシテスが現れますが、オデュッセウスは王笏で打ちすえ、その暴言を止めさせます。さらに彼は、出征前に起きた不思議な前兆――大蛇が母鳥と八羽の雛を飲み込み石になる出来事――を語りました。

預言者カルカスはこれを「9年の戦いの後、10年目にトロイアは陥落する」という神の知らせだと解釈していました。

老将ネストルの助言を受け、アガメムノンは軍を整え、ギリシャ軍は再び戦いへ向けて動き出します。

オデュッセウスの叱咤――兵士たちを呼び戻す英雄の声

知恵に富む英雄・オデュッセウスは、兵士たちの間を歩きながら声を上げました。

「おぬしらは、アガメムノンの真意を理解しておらぬ。
王は、おぬしらの心意気を試しておられたのだ。
そんなことも分からぬでは、後で厳しい罰を受けることになろう」

彼は王笏を手に、兵士たちを叱咤しながら陣中を巡ります。

すると先ほどまで船へ向かっていたギリシャ軍は、怒涛のごとく集会場へ戻ってきました。

そのとき、一人の男が金切り声をあげます。

それは、兵士たちの中でも最も口が悪い男、テルシテスでした。
彼はギリシャ軍の将たちから嫌われている人物です。

「アガメムノンよ!
いったい何がまだ不足だというのだ。

城を落とせば、真っ先に金銀や女を自分の戦利品に選び、おぬしの陣屋には宝があふれているではないか。

そのうえアキレウスの女まで奪い取った。
こんな貪欲な男のために戦うくらいなら、我らは故国へ帰るべきだ!」

この暴言に、オデュッセウスは厳しく言い放ちました。

「テルシテスよ。
王侯に悪口雑言を浴びせ、兵士たちに帰国を勧めるなど、お前のような者が口を出すことではない。

これは脅しではない。
今後そのような振る舞いをすれば、容赦なく打ちすえ、この集会の場から追い払うぞ」

そう言うとオデュッセウスは、王笏でテルシテスの背と肩を打ちすえました。

テルシテスは涙を流し、痛みに顔を歪めながらその場に座り込むしかありませんでした。

兵士たちはこの様子を見て笑い、オデュッセウスの言葉に耳を傾け始めたのです。

大蛇の前兆――カルカスが読み解いたトロイア戦争の運命

オデュッセウスは、兵士たちに向かって語り始めました。
女神アテナも、伝令の姿を借りてそばに立っています。

「トロイアの地に来て、はや九年が過ぎた。
国に帰りたいと思うほど苦しい戦いではある。

だが思い出してほしい。
預言者カルカスの占いを」

彼は、出征前の出来事を語りました。

「トロイアへ向かう前、われらはギリシャの港アウリスに集まっていた。
そこには、清らかな泉の湧く大きなスズカケの樹があった。

われらが祭壇で神々に捧げ物をしていたときのことだ。

突然、血のように赤い恐ろしい大蛇が祭壇の下から現れた。
その大蛇は、樹の枝にいた八羽の雛と、その母鳥を襲った。

そして九羽すべてを飲み込んだ瞬間――その体は石に変わってしまったのだ」

兵士たちは息をのんで聞いています。

「そのとき、預言者カルカスが神意を読み取った。

『これはゼウスが示した大いなる前兆である。
九年の戦いののち、十年目にトロイアは陥落する』と。

そして今、われらはその九年を戦い抜いた。
勝利の年は、まさに今なのだ。
だから、ここで踏みとどまってほしい!」

老将ネストルの進言――軍をまとめる戦略

この言葉に続いて、老将ネストルが口を開きました。

「なんたることか、情けない。
ヘレネを取り戻すという誓いはどうなるのだ。

アガメムノンよ、揺るぎない指揮を取っていただきたい。
軍を部族ごと、氏族ごとに編成されよ。

そうすれば、部族同士が助け合い、勇気を奮って戦うことができよう」

この助言を聞いたアガメムノンは、大いに喜びました。

「ご老体よ、そなたのような相談役が十人もいれば、トロイアの城はすぐに落ちるであろう。

さあ兵士たちよ、腹いっぱい食べ、戦いの準備をせよ。
戦いから逃げようとする者は、野犬や野鳥の餌になると思え!」

そう言うとアガメムノンは、立派な五歳の牡牛を選び、大神ゼウスへ生贄として捧げました。

ゼウスはその生贄を受け取りました。

しかし心の中では、ギリシャ軍にさらなる苦難を与えようと考えていたのです。

こうして両軍は戦いの準備を整え、ギリシャ軍とトロイア軍は、壮大な陣容で戦場に対峙することになりました。