
神々の王ゼウスは、いかなる神も戦場に介入してはならないと厳命しました。
女神アテナは命令に従いながらも、ギリシャ軍が全滅しないよう知恵で助けることを誓います。
戦場では激戦が続き、ゼウスが運命の秤で両軍の行く末を量ると、トロイア側に有利な結果が示されました。
さらに雷を落とされたギリシャ軍は動揺し、ディオメデスと老ネストルもやむなく退却します。勢いづいたヘクトルはゼウスの加護を信じてギリシャ軍の船を焼こうと進撃しました。
一方、ギリシャ側を応援する女神ヘラは怒り、海神ポセイドンに助力を求めますが、ゼウスに逆らうことを恐れて動こうとはしませんでした。
目次
ゼウスの絶対命令、神々は戦場に介入するな
神々が集うオリュンポスで、神々の王ゼウスは厳しく言い放ちました。
「わしの命令に背き、トロイアやギリシャに加勢する者があれば、雷で打ち砕く。あるいは冥界よりさらに深いタルタロスへ投げ込んでやろう。わしの力は神々と人間の誰よりも強い。誰もわしに逆らうことはできぬ」
ギリシャ軍をひいきにしている女神アテナが答えました。
「父上の力はよく存じております。私たちは戦いから手を引きます。ただしギリシャ軍が全滅しないよう、少しばかり知恵を授けることはお許しください」
ゼウスは穏やかに言います。
「案ずるな、可愛い娘よ。わしはそなたに優しい父でありたいと思っている」
そう言うとゼウスは黄金の鎧をまとい、黄金の鞭を手にして二頭立ての戦車に乗り込みました。そしてトロイアを見下ろすイデ山のガルガロン峰へ向かいます。そこはゼウスの聖なる場所でした。
運命の秤、勝敗はまずトロイアへ傾く
その頃、地上ではギリシャ軍とトロイア軍が総力戦を繰り広げ、大地は血に染まっていました。
昼頃になると、ゼウスは黄金の秤を取り出し、両軍の運命を量ります。秤の一方にはトロイア軍、もう一方にはギリシャ軍の死の運命が乗せられました。
すると秤はトロイア側が上に上がり、ギリシャ側が重く沈みました。ゼウスはその結果を見て、ギリシャ軍の陣へ雷を投げつけます。雷鳴に驚いたギリシャ軍は恐れおののき、後退を始めました。
ヘクトル迫る、老ネストルを救うディオメデス
そんな中、老将ネストルだけが戦場に取り残されていました。パリスの放った矢が彼の馬を射抜き、戦車が動けなくなっていたのです。
この機を逃さず、トロイアの英雄ヘクトルが迫ってきます。それに気づいた勇将ディオメデスは叫びました。
「老ネストルよ、私の戦車に乗ってください。ともにヘクトルを迎え撃ちましょう」
ディオメデスは槍を投げ、ヘクトルの御者エニュオペウスの胸を貫きます。御者を失ったヘクトルはすぐに別の御者を立てました。しかし、このままではヘクトルが敗れ、トロイア軍が崩壊してしまう。
そう判断したゼウスは、ディオメデスの戦車の前に雷を落としました。炎が立ち上るのを見たネストルは言います。「ディオメデスよ、今は退こう。ゼウスはヘクトルに栄誉を与えるつもりなのだ」
ディオメデスの無念、英雄の退却
ディオメデスは悔しさを抑えきれず言いました。
「ヘクトルはこう言うだろう。『ディオメデスは私に敵わず、船へ逃げ帰った』と。それならいっそ、大地よ裂けて私を飲み込んでくれ」
ネストルは若き英雄をなだめます。
「お前ともあろう者が何を言う。お前に討たれたトロイア兵の妻たちが、ヘクトルの自慢話など信じるはずがない」
二人が退くと、ヘクトルは嘲りました。「逃げ帰れ、女のような臆病者め」
ディオメデスは引き返して戦うべきか迷います。しかしその時、ゼウスが三度目の雷を鳴らしました。これが神の意思であると悟り、彼はついに退却します。
ヘクトルの進撃、ギリシャ軍の船を狙う
勝利の勢いに乗ったヘクトルはトロイア軍を鼓舞しました。
「ゼウスは我らトロイアに味方している。あのギリシャの防壁など恐れるに足りぬ。堀も飛び越えてやろう。さあ進め、ギリシャの船を焼き払うのだ」
ヘラの怒り、しかしポセイドンは動かず
ギリシャ軍をひいきにしている女神ヘラは怒りに震えました。
「海神ポセイドンよ、ギリシャ軍が次々と倒れるのを見て、ただ黙っているのですか。どうか彼らを助けてください」
しかしポセイドンは冷静に答えます。「ヘラよ、それは無謀だ。ゼウスに逆らえぬことは、そなたもよく知っているはずだ」
こうして神々の間でも緊張が高まる中、戦場ではトロイア軍が優勢のまま戦いが続いていきました。

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