バニー〈哀愁のペネロペイア〉
ぼろをまとった老人に姿を変えたオデュッセウスは、忠義の豚飼いエウマイオスの牧場を訪れます。
牧場では肥えた豚が求婚者たちの食事に使われ、主人の財産が食いつぶされていました。
エウマイオスは見知らぬ老人を親切にもてなしながら、主オデュッセウスの帰還を半ばあきらめている胸中を語ります。それでも彼は主人への忠誠を失わず、求婚者たちの横暴を嘆き続けていました。
オデュッセウスは正体を隠したまま、主人の名を尋ねたり帰還を予言したりしますが、エウマイオスは容易に信じません。
そこでオデュッセウスはクレタ出身だという長い作り話を語ります。こうして二人は火を囲み、食事を共にしながら静かな夜を迎えるのでした。
忠義の男エウマイオスの牧場
豚飼いエウマイオスの牧場は、石垣の上にトゲのある灌木を積み重ねた囲いで守られていました。
その囲いの中には、十二の豚小屋があります。各小屋には五十頭のメス豚が飼われており、外にはそれより数の少ないオス豚がいました。
丸々と太ったオス豚は、屋敷に居座る無法な求婚者たちの食事に供されていたからです。
そこへ、ぼろをまとったオデュッセウスがやって来ました。
すると牧場の犬たちが激しく吠えかかり、今にも彼を食い殺そうとします。
エウマイオスは作りかけの牛皮のサンダルを投げ出し、慌てて犬を追い払いました。
「さあ、じいさん、小屋に入ろう。食いたいだけ食い、飲みたいだけ飲んで、ゆっくり話そう」
「異国の人よ、そなたの親切に対して、神々がそなたの望みをかなえてくださいますように」
オデュッセウスはそう言って礼を述べました。
忠臣エウマイオスの嘆き
エウマイオスは語り始めました。
「じいさん、二十年前、メネラオスとアトレウス家の名誉を守るため、わが殿様はトロイアへ出征された。
あのヘレネのような女は、死んでしまえばよかったのだ」
そう言うと、彼は子豚を二匹殺し、火にかけて焼き始めました。
「じいさん、こんな子豚の肉しかないが、食べてくれ。
肥えた豚は、あの無法な求婚者どもが平らげてしまう。
やつらは天罰を恐れることもなく、人を憐れむ心もない。
きっと殿様の死を、神のお告げか何かで知っているに違いない。屋敷に居座っては、財産を食いつぶしているのだ。
とはいえ、殿様の財産は莫大だから、すぐに尽きることはないがな」
オデュッセウス、主人の名を尋ねる
オデュッセウスは食べながらも、〈どうやって求婚者たちを倒すか〉思案していました。
そして何気ない様子で尋ねます。
「トロイア戦争に出たほどの人物で、しかもそれほどの財産を持つ立派な人なら、わしも名を聞いたことがあるかもしれぬ。
その殿様の名は何というのだ。消息に心当たりがあるかもしれぬ」
疑り深い豚飼いエウマイオス
エウマイオスは首を振りました。
「じいさんよ、この辺りに来る者は、もてなしを受けたいがために皆嘘をつく。
だが奥様も若様も、そんな話には騙されぬだろう。
ペネロペイア様はお優しいお方だから、嘘でも最後まで聞いて涙を流されるのだ。
だがな、わしは思う。
殿様――オデュッセウス様は、もうこの世にはおらぬだろう。
わしは両親の死より、殿様の死を悲しむ。
たとえここにおいでにならなくても、わしにとっては大切なご主人様なのだ」
オデュッセウスは言いました。
「おぬしは人の言葉を信じようとせぬ。
わしは誓って言う。オデュッセウスは今年中にイタケへ帰ってくる。
そして無法な求婚者どもは、きっと罰を受けるであろう」
エウマイオスは苦笑しました。
「じいさんよ、その吉報に礼などはできぬ。
オデュッセウス様は、もう帰ってこないだろう。
それよりも、殿様の父ラエルテス様のご老体、奥様、そしてご子息。
殿様が帰られたら、どれほど喜ばれるだろうか。
そのご子息テレマコス様も、父の消息を求めてピュロスやスパルタへ旅立たれた。
だが無法者の求婚者たちは、若様を帰り道で待ち伏せして殺そうとしているのだ」
そして尋ねました。
「さて、じいさん。おぬしの名は何と言う。どこから来たのだ」
オデュッセウスの長い作り話
オデュッセウスは、もっともらしい作り話を語り始めました。
「わしはクレタ島のカストルの妾の子だ。
父が死んだとき、わしに残された財産はわずかだった。
だが武勇に恵まれ、戦で大きな戦利品を得て、クレタでは名士になった。
やがてトロイア遠征にも加わった。
九年間戦い、十年目にトロイアを陥落させた。
だが帰国の途中、神々がギリシャ軍を散り散りにしてしまった。
わしはクレタへ戻ったが、妻と子と過ごしたのはわずか一か月。
部下と船団を率い、エジプトへ向かったのだ」
オデュッセウスはさらに話を続けました。
エジプトでの戦い、フェニキア人との旅、ゼウスの雷による難破――。
「帆柱にしがみついたわしは九日間海を漂い、十日目にテスプロトイ人の国へ流れ着いた。
そこでオデュッセウスの噂を聞いた。
彼はドドネへ行き、帰国の時をゼウスの神意に尋ねているという。
だがその後、わしは船員に裏切られ、身ぐるみを剥がされ、縄で縛られてしまった。
そしてここイタケに連れて来られたのだ。
だが神が助けてくれたのだろう。
縄がほどけ、わしは逃げ出したというわけだ」
信じない忠臣
エウマイオスは首を振りました。
「じいさんよ、おぬしは気の毒な人だ。
だが、オデュッセウス様の話だけは信じられぬ」
オデュッセウスは苦笑しました。
「いやはや、誓って話しても信じてもらえぬとは。
おぬしはよほど疑り深い性分らしい」
その夜、エウマイオスは今度は肥えた豚を一頭屠り、
オデュッセウスと、エウマイオス、そして三人の使用人で食事をしました。
こうして彼らは火を囲み、静かに眠りについたのでした。

![テレマコス、ついにイタケへ!求婚者の罠と神のしるし[第15歌]](https://greek-myth.info/wp/wp-content/uploads/2017/07/Telemachos-300x194.jpg)