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乞食イロスシャガール〈オデュッセウスと乞食イロス〉

あらすじ

オデュッセウスの館では、求婚者たちが酒宴に興じていました。そこへイタケで有名な乞食イロスが現れ、ぼろをまとったオデュッセウスに喧嘩をしかけます。

求婚者たちは面白がって二人を戦わせますが、実は英雄オデュッセウスの一撃によってイロスはあっけなく倒されてしまいました。

やがて美しい姿で広間に現れたペネロペイアは、求婚者たちの無礼な振る舞いを厳しく非難します。彼らは慌てて贈り物を差し出しました。

一方、女中メラントや求婚者エウリュマコスは、乞食姿のオデュッセウスを嘲笑し、足台を投げつけます。しかし彼は怒りをこらえ、復讐の機会を待ち続けました。

ついにテレマコスも求婚者たちに堂々と退去を命じ、広間の緊張は高まっていくのでした。

乞食イロスの挑発「この老ぼれめ!」

イタケで公認の乞食ともいえるイロスが、オデュッセウスの館に入ってきました。
彼は、ぼろをまとったオデュッセウスを見るなり、喧嘩腰で罵り始めます。

その様子は、食事をしていた求婚者たちにとって格好の見世物でした。
彼らは面白がって二人をあおり立てます。

しかたなく、オデュッセウスはぼろ着をまくり上げ、喧嘩の構えを取りました。
年齢には似合わぬ逞しい腕や脚を見た瞬間、イロスの勢いは消え失せます。
彼は怖気づき、後ずさりしました。

しかし、意地の悪い求婚者たちは逃げることを許しません。

あきらめたイロスは先制攻撃を仕掛け、オデュッセウスの右肩を打ちました。
しかし次の瞬間、オデュッセウスの拳がイロスの顎を強烈に打ち抜きます。

イロスはあっけなく床に倒れ込みました。

求婚者たちは大笑いしながら言います。

「他国の者よ、褒美として一番良い肉をやろう。
これで大食いのイロスも、もう物乞いはできまい。

いっそギリシャ本土のエケトス王のところへ送ってやるといい。
この王は人間を見れば、誰彼かまわず不具にしてしまうというからな」

女神の化粧 ― ペネロペイア、広間に現れる

その時、ペネロペイアが二人の女中を伴い、二階から広間へ姿を現しました。

その美しさに、求婚者たちは皆「この女と寝たい」と思いました。
それもそのはず、女神アテナが彼女の心労を取り除き、化粧を施し、いっそう美しく見えるようにしていたのです。

ペネロペイアは、まず息子を叱りました。

「テレマコスよ、なんという体たらくです。
この館で他国の者がこのような目にあうのを止めることもできぬとは。
世間から見れば、わが家の恥となりましょう」

テレマコスは悔しそうに答えます。

「母上のお怒りはもっともです。
しかし、ここにいる求婚者たちが何かと口を出し、私の行動を妨げるのです」

続いてペネロペイアは、求婚者たちにも抗議しました。

「わたしが口惜しく思うのは、あなた方の求婚の仕方がしきたりに反していることです。

本来ならば、求婚する者は女の身内をもてなし、見事な贈り物を持ってくるもの。
それなのに、あなた方は求婚する女の家の財産を食いつぶしているではありませんか」

この言葉に焦った求婚者たちは、召使いを自分の家へ走らせ、豪華な贈り物を持ってこさせました。

それを確認すると、ペネロペイアは静かに二階へ引き上げました。

性悪な女中メラントの侮辱

やがて夕闇が迫り、女中たちが松明を灯し始めます。

そこでオデュッセウスは言いました。

「食事のお礼に、わしが火を灯そう。
女たちは奥方様のところへ行くとよい」

すると、求婚者の一人エウリュマコスと情を通じている女中メラントが、オデュッセウスを罵りました。

「酒を飲みすぎたのか、それともイロスに勝っていい気になっているのか。
いつまでここに居座るつもりだい!」

オデュッセウスは言い返しました。

「この恥知らずの牝犬め。
テレマコス様におまえの暴言を伝えてやろう」

メラントは恐怖に震え、広間から逃げ出しました。

※このメラントは、第17歌に登場した性悪な山羊飼いメランティオスの姉妹です。

エウリュマコスの嘲笑

オデュッセウスが何やら思案しているのを見て、
女神アテナは彼の怒りをさらにかき立てるため、エウリュマコスに嘲笑の言葉を吐かせました。

「松明の光は、どうやらこの他国者の頭から出ているようだな。
なにしろ、この男の頭には毛が一本もないのだから」

求婚者たちは大笑いします。

オデュッセウスは静かに答えました。

「エウリュマコスよ、そなたは無礼で残忍な男だ。
腰抜けどもと群れているから、自分が偉いとでも思っているのだろう。

もしオデュッセウス様がお帰りになれば、
そなたこそ真っ先に殺されることになるだろう」

エウリュマコスは怒りに顔を歪めました。

「口減らずの乞食め!
イロスに勝ったくらいで、いい気になっているのか!」

そう言うと、足台をオデュッセウスに投げつけました。

しかしオデュッセウスは難なくそれをかわします。
哀れなことに、その足台は酒を酌んでいた小姓に当たってしまいました。

テレマコス、ついに声を上げる

さすがのテレマコスも、これには耐えられませんでした。

彼は立ち上がり、求婚者たちに向かって言い放ちます。

「すでに十分に飲み食いされたはずだ。
もう帰って眠られてはどうか」

求婚者たちは、テレマコスの大胆な言葉に唖然としました。

その中で、まだ多少の良識を持つアンピノモスが言いました。

「テレマコスの言うことはもっともだ。
他国の者に乱暴するのは、もうやめよう。

皆、神に献酒してから家に帰るとしよう」

こうして、その夜は求婚者たちも館を後にしたのでした。