1話5分で読めるギリシャ神話

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アグラウロスと「嫉妬」の女神

ギリシャ神話での「嫉妬」の女神は特定できません。愚行の女神「アテ」だとする人もいますが、「愚行」の女神で「嫉妬」ではありません。「アテ」はヘラクレス誕生の時、ゼウスを迷わせました。また、アガメムノンはアキレウスの怒りをかった原因を「アテ」のせいにしました。あくまで、愚かな行為をさせる女神です。
嫉妬する女神の代表は、ゼウスの妃ヘーラーです。気の毒なくらい嫉妬して、ゼウスの浮気相手に嫌がらせをします。また、「嫉妬」は女のものと思われているようです。男の場合、嫉妬心より対抗心でしょうか。

女神アテーナ
〈女神アテーナ〉

ウルカヌス=ヘーパイストス
ミネルウァ=アテーナ
メルクリウス=ヘルメース
ユピテル=ゼウス
※オウィディウス『変身物語』より

欲張りなアグラウロス

女神ミネルウァは、鍛冶の神ウルカヌスの精が大地に落ちて生まれたエリクトニオスを柳で編んだカゴに入れて、
「決して開けてはならぬ」
と、半身は蛇だったという初代アテーナイ王ケクロプスの三人娘パンドロソス、アグラウロス、ヘルセに預けました。
パンドロソスとヘルセは女神の言いつけを守りましたが、アグラウロスはそんな二人を臆病者とののしり、かごを開けてしまいました。中には、赤子と小さな蛇が入っていました。このことから、女神はアグラウロスに怒りを覚えていました。

神メルクリウス、ヘルセに一目惚れ。

ある日、神メルクリウスがアテーナイの上空を飛んでいた時、地上にひときわ美しい乙女を発見しました。ケクロプス王の娘ヘルセです。神は王の館に降り立ち、乙女の部屋の前に立ちました。右側の扉がパンドロソス、中央がヘルセ、左側がアグラウロスでした。この時、いち早くメルクリウスに気づいたのがアグラウロスで、彼女は気後れもせず、神メルクリウスに問いました。
「あなたはどんな神で、何しに来られたのですか?」

メルクリウス、アグラウロスに助力を願う。

「私は、ユピテルの使者メルクリウス。私がやって来た目的は、あなたの妹ヘルセだ。恋している私に力をかして欲しい」
女神ミネルウァの言いつけを無視した時と同じ目をして、なんということでしょう、アグラウロスはメルクリウスに大量の黄金を約束させ、神をいったん屋敷から追い出してしまいました。

これを見ていた女神ミネルウァは、さらに怒りを膨らませました。アグラウロスは自分の妹ヘルセをダシにし、神から黄金をせしめようとしているのです。

女神ミネルウァ、「嫉妬」のすみかへ。

「嫉妬」の家は、陽も射さない谷底にあり、風も吹かない、冷えびえした寒気に包まれ、つねに暗黒の中にあります。男勝りの戦の神でもあるミネルウァも、この家に入ることは許されていません。持っていた槍の先で、ドアを叩きます。

扉が開くと、ミネルウァは目を背けました。「嫉妬」が毒蛇を食らっているところです。こうすることによって、悪念を養っているのです。食べかけの毒蛇を置いて、ミネルウァを横目で見ます。その美しさに、うめき声をあげ、ため息をつき、しかめ面になりました。顔は蒼白、歯は垢で汚く、舌は毒で濡れています。
「嫉妬」は、他人の悲しみを見るとき以外は決して笑いません。他人の成功は不愉快で、見るとやせ衰えていきます。

「ケクロプスの娘アグラウロスに、仕置きとして、お前の毒素を移して欲しいのです」
こう言い残すと、ミネルウァはすぐに飛び去りました。

「嫉妬」アグラウロスの寝所へ。

「嫉妬」は、針のついた鎖を巻いた杖を手にし、黒い雲に身を包みました。女神が通り過ぎると、草は枯れ、吐く息は都市や住民をけがします。遠くアテーナイの都を見ると、悲しい情景が一つもないことに涙がこぼれそうでした。
「くそ、みんな幸せそうではないか」
そうこうするうちに、「嫉妬」はアグラウロスの部屋にやってきました。

アグラウロスの胸を触り、心臓にトゲトゲのイバラを植え、病を吹き込み、骨と肺に毒をふりかけます。妹のヘルセ、美しい姿の神メルクリウス、二人の幸せな結婚、それらをみんな誇張させ、吹き込みます。こうして、アグラウロスは苦しみ悶え、悩みに自殺しようともし、厳しい父親に告げ口をしようともして、やせ細っていきます。

アグラウロス、嫉妬のはてに。

メルクリウスがやってくると、アグラウロスは扉の前に座り込み拒否します。どんなにメルクリウスが説いても、聞き入れません。
「おやめください。あなたを追い払うまで、私はここを動きません」
「よろしい、そういうあなたの言葉を守りましょう」
メルクリウスは杖を振り扉を開けると、アグラウロスは立ち上がろうとしました。しかし、足は気だるくなり、立ち上がれません。膝はこわばり、冷気が爪先まで行きわたり、血管は白くなりました。死が胸に忍び込み、呼吸もできず、アグラウロスは座ったまま嫉妬心に囚われた黒い石像になってしまたのです。

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