1話5分で読めるギリシャ神話

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カドモス テーバイの創始者

竜に食われるカドモスの家来たち
コルネリス・ファン・ハールレム〈竜に食われるカドモスの家来たち〉ナショナル・ギャラリー

エウロペーの兄カドモス
「もう、エウロペーを探すのは止めよう」
父フェニキア王アゲノールに命じられたカドモスは、ゼウスにさらわれた妹エウロペーを探すことを諦めました。
「妹と一緒でなければ帰ってはならぬ」
カドモスと家来たちは帰国することもままならず、アポロンの神託を伺うことにしました。

「一頭の牝牛を見つけたら後をつけ、その牝牛が足を止めた場所に街をつくり、テーバイと名付けよ」

エウロペーの誘拐〉参照

神託の牝牛
カドモスがアポローンの神託所から外に出ると、なんと牝牛が一頭歩いているではありませんか。彼は改めて神に感謝し、その牝牛を追っていきました。やがて、牝牛はケピソス川を渡り、パノペーの野にでて、ここで足を止めました。

カドモスは感謝し、大地にひざまづくと地に接吻しました。大神ゼウスへの祭壇をつくり、捧げものを用意し、家来には献酒に使う水をくんでくるよう言いつけました。

泉の大蛇
近くにはまだ誰も踏み込んでいない森があり、森には洞穴がありました。洞穴は丸天井になっていて、その下に清らかな泉がありました。
家来たちは水瓶に水を汲もうとしました。すると、洞穴から大蛇が現れ、その鎌首を持ち上げました。その高さは大きな木よりもあり、目は炎のように光り、体は毒液で被われ、口は三つ叉の舌を出しています。

家来たちは血の気も去り、手足を震わせているだけで動くこともできません。ある者は大蛇の毒牙にかかり、ある者はとぐろに巻かれ、ある者は毒の息を吹きかけられ、殺されてしまいました。

カドモスの竜退治
ヘンドリック・ホルツィウス〈カドモスの竜退治〉

カドモス、大蛇と戦う
カドモスは家来が帰ってこないので、探しに出ました。そして、泉のそばで殺された家来を見つけ、血で真っ赤な口の大蛇と対峙しました。
「おお、君たちの仇は必ずとってやる、さまなくば、私もここで死のう」

彼は砦の門も壊せるほどの大きな石を持ち上げ、大蛇に投げつけました。が、大蛇はびくともしません。今度は持っていた槍を投げつけました。槍は鱗をつらぬき、大蛇の体に刺さりました。大蛇はその痛みから、槍を引き抜こうとしましたが、柄が折れて槍の先は体の中に残りました。大蛇はもだえ苦しみ、カドモスに襲いかかろうと大きな口をあけて迫ってきます。カドモスはひるます、その顎めがけて槍を突き出しました。ちょうど真後ろにあった木に大蛇の頭は打ち付けられ、死んでしまいました。

大蛇の歯
カドモスが死んだ大蛇を見ていると、頭の中から声が聞こえます。
「大蛇の歯を大地にまきなさい」
カドモスには分からなかったのですが、それは女神アテーナの声でした。

彼は野に畦(あぜ)をつくり、大蛇の歯をまいて土をかけました。
すると、まず槍が生えてきました。次に兜、肩、胴体、足の順に、なんと兵士が生えてきました。どんどん兵士が生えてきて、互いに戦いはじめました。カドモスも戦うよう身がまえました。すると、兵士の一人がカドモスに告げました。
「われわれ身内の戦いに、手出しは無用!」

カドモスとアテーナ
ヤーコブ・ヨルダーンス〈カドモスとアテーナ〉プラド美術館

スパルトイ(まかれた者たち)
しばらく、戦いは続きましたが、一人の兵士が武器を捨て言いました。
「兄弟たちよ。我々は平和に暮らそうではないか」
戦いは終わり、最後に残った兵士は5人。そして、カドモスとこの5人の兵士スパルトイ(まかれた者たち)がテーバイの国をつくったのです。

その後、カドモスは女神アフロディーテの娘ハルモニア(調和)と結婚しました。その結婚式は盛大で多くの神に祝福されました。しかし、倒した大蛇が軍神アレースに捧げられていたからしょうか。彼の子供〈セメレー〉や〈イーノー〉、孫の〈アクタイオーン〉や〈ペンテウス〉は、不運な運命で死んでしまいます。そのため、カドモスとハルモニアは忌み嫌われ、テーバイから去らざるをえませんでした。

カドモスと妻ハルモニアの運命
カドモスは他の国の王として迎えられましたが、ある時自分の運命を嘆き叫びました。
「もし蛇の命が神々にとってそれほどまでに大切なものならば、私も蛇になりたいものだ」
言ったとたん、彼の体は蛇に変身していきました。
「私も夫と運命をともにさせてください」それを見ていたハルモニアも神々に祈りました。

こうして二人は蛇になって、森で暮らすことになったのです。しかし、心は人間のままでしたので、人が近づいても逃げることはなく、また人に危害を加えることもありませんでした。