1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。姉妹サイト〈1話5分で読める聖書-アートバイブル

イリアス第二歌:ゼウス、惑わしの夢を送る

ゼウス、惑わし夢を送る
〈ゼウス〉

(イリアス 第二歌)

ゼウス、夢の神オネイロスを送る

「アキレウスの面目を立てるには、どうしたものだろう?」
ゼウスはアキレウスの母テティスの願いを叶えるために悩んでいました。思いついたのが、夢の神オネイロスを呼んで、アガメムノンのもとに送ることでした。
「よいか、アガメムノンに申し渡すのだ。今こそトロイアは陥落すると。オリュンポスの神々も異存はない。妃ヘラの切なる願いは叶うことになったのだ」と。

これは偽りのことで、ゼウスはトロイアをまだ陥落させるつもりはありません。

夢の神はアガメムノンの信頼厚い老将ネストルの姿をかり、ゼウスの神慮をアガメムノンに伝えました。彼は軍の集会を伝令使に布告させると、王笏を手にし、青銅の武具に身を固めて陣地に向かいました。

アガメムノン、ギリシャ軍の士気を試す

アガメムノンは先に長老たちに夢の内容を伝えていましたが、兵士たちの士気を試すために反対のことを演説しました。
「勇士たちよ、かつてゼウスはトロイア陥落を約束されたのに、9年間も戦ってきた我らに帰れと命じなされた。我ら大軍は、数では少ないトロイア勢に勝てなかった。このことは後の世の者たちに聞かれては恥ずかしい。だが、わしの言うことを聞いて故国に帰ろう」

ギリシャ軍は大声をわめきながら各自の軍船に戻り、帰り支度をはじめました。

ゼウスの妃ヘレ、アテネを使わす

下界を見ていたゼウスの妃ヘラはあっけにとられ、アテネを呼び伝えました。
「アテナよ、なんと情けないことか。ギリシャ軍は、あのヘレネを取り戻さずトロイアの自慢話にしたまま故国へ帰る気だ。急いで地上に降り立って、一人ひとりに戦うよう引き止めておくれ」

アテナはすぐさまオリュンポス山を駆けおりました。そこには、悲しみに胸を閉ざしたオデュッセウスがいました。アテナはそばに立つと、
「オデュッセウスよ、そなたたちは、なんという体たらくか。あのヘレネをトロイアの自慢の話にしたまま故国へ帰るのか。さあ、兵士たちを引き止め、船に乗せてはならぬぞ」

オデュッセウスはこれぞ女神の言葉と聞き分けると、アガメムノンの王笏を借りうけ、ギリシャの軍船に向かいました。

オデュッセウスの鼓舞と口汚いテルシテス

「おぬしらは、アガメムノンの真意がよく分かっていないのだ。彼は、おぬしらの心意気を試しておられるのだ。後で厳しい罰を受けることになろう」
オデュッセウスが激励して陣中を回ると、今度はギリシャ軍が怒涛のごとく集会場に戻ってきました。

すると、いつも口汚くののしるテルシテスがアガメムノンに金切り声をあげました。アガメムノンやオデュッセウスにとっては、最も憎い男です。
「アガメムノンよ、いったい何がまだ不足だと言うのか。城を落とせば、真っ先に金銀や女を自分の戦利品として選び、おぬしの陣屋には溢れているではないか。その上、アキレウスの女まで自分のものにした。こんな貪欲なやつらは残して、我らは故国に帰ろうではないか」

「テルシテスよ、王侯に悪口雑言をはき、兵卒に帰国を進めるなどお前が考えることではない。これは脅しではないぞ、今後ふたたびそのような振る舞いをしたら、したたかに打ちすえ、集会の場から追い払ってやる」
オデュッセウスは言うと、王笏でテルシテスの背と肩を打ちすえました。テルシテスは、涙を流し座りこむしかありません。

スズカケの樹と大蛇イメージ〈スズカケの樹と大蛇〉

アウリスの祭壇近くで、母鳥1羽と8羽の雛を飲む大蛇

オデュッセウスは語りました。アテナも伝令使として、そばに立っています。
「トロイアの地にきて、はや9年がたった。国に帰りたいほどの苦労ではある。しかし、ここはあの預言者カルカスの占いが真かどうか確かめてくれ。

トロイアに出発する前に港アウリスに集結した時のことだ。
根元から清らかな泉が流れている大きなスズカケの樹があった。その近くで神への祭壇でお供えをしていた時、背は血のごとく赤く、見るも不気味な一頭の大蛇が祭壇の下から躍り出てきた。大蛇の目的は、スズカケの樹にいる8羽の雛とその母鳥1羽だった。その9羽を飲み込んだ瞬間、大蛇の姿は石に変わった。

われらはあっけにとられていたが、預言者カルカスは即座に神意を察し『これはゼウスが示された偉大な前兆である。9年の戦いの後、10年目にトロイアが陥落するだろう』と。
彼の言った通りになろうとしているのだ。だから、しばし踏みとどまってくれ」

老将ネストルも付け加えました。
「なんたることか、情けない。ヘレネを取り戻すという約束と誓いはどうなるのだ。アガメムノンよ、揺るぎない指揮をとってもらいたい。全軍を部族別、氏族別に分けられるがよい。さすれば、お互い部族同士、氏族同士で助け合い戦うことができる」

「ご老体よ、これほどの相談役が10人もいてくれたらと思う。さあ、たらふく食って戦いの準備をしてくれ。戦いの場を離れようとするものは、野良犬野鳥の餌食になると観念せよ」
そう言うとアガメムノンは、見事な五歳の牡牛をゼウスの生贄に捧げました。

ゼウスは生贄を受け取りましたが、ギリシャ軍にはさらに労苦を増そうとしていました。こうして、ギリシャ軍とトロイア軍は、合戦を前に堂々たる陣容で対峙しました。

〈イリアス第三歌前編:パリスとメネラオスの決闘〉へ