レイノー〈夜の女神ニュクス〉
夜の女神ニュクスとその子供達
ニュクスは、原初のカオスから生まれた古くからの女神です。天界の歴代の支配者ウラノス、クロノス、ゼウスさえも恐れていました。
ニュクスの子には、モロス(死の定業)、死の運命であるケール、またタナトス(死)、ヒュプノス(眠り)、オネイロス(夢)の一族、更に、モーモス(非難)とオイジュス(苦悩)がいます。
さらに、ネメシス(義による復讐)、アパテー(欺瞞)、ピロテース(愛欲)、ゲーラス(老年)、そして人間の苦しみの大きな原因とも言える「争い」の女神エリスもニュクスの子です。
この争いの神エリスは、女神テティスとペーレウスの結婚式に招かれなかった腹いせに、「最も美しい女神に」と記した黄金のリンゴを宴の場に投げ入れました。このことが発端になり、あのトロイア戦争が起こったのです。女神テティスとペーレウスの子が、英雄アキレウスです。
アトラスの娘で黄金のリンゴの樹を守っているヘスペリデスも、ヘシオドスはニュクスの娘と呼んでいます。
運命の三女神モイライもニュクスの娘とされ、クロトは運命の糸を紡ぎ、ラケシスはその糸の長さを決め、アトロポスが最後に糸を断ち切ります。
→ヘラクレスの難業[11・12]黄金の林檎と冥界の番犬ケルベロス
モロー〈夜の女神ニュクス〉
昼の女神ヘーメラーもニュクスの娘?
あまりギリシャ神話には出てきませんが、ヘーメラーもニュクスの娘です。母娘二人は表裏一体をなす存在で、世界の西の果ての地下に館を共有しています。
ニュクスが世界を巡って夜をもたらしている間は、ヘーメラーが地下の館で眠っています。
そして、ヘーメラーが世界を巡って昼になっている間は、ニュクスがここで休んでいます。ですから、二人が一緒に館にいるのは、昼と夜の境目の一瞬だけなのです。
人間は夜になると、様々な想像・妄想をいだきます。それが、夜の女神ニュクスを多くの画家が描く理由ではないでしょうか。
ブグロー〈ヘーメラー 昼〉