ダイダリオーンの荒い気性
ダイダリオーンの弟ケーユクスは、語りました。
「あらゆる鳥たちを怖がらせているあの鷹という鳥は、はじめから鳥類だったのでしょうか? 実は、人間だったのです。その性格は鳥になった後も前も変わらないものです」
ダイダリオーンとケーユクスの兄弟は、あの明けの明星と曙の女神(エオス)の子供です。弟ケーユクスは平和を愛しているのに、兄のダイダリオーンは、争い事が大好きな気性の荒い性格です。
ヘルメスとアポロンに愛されたキオネ
ダイダリオーンには、美しいキオネという娘がいました。14歳の結婚適齢期をむかえると、その美貌からたくさんの求婚者がやってきます。アポロンとヘルメスの両神も彼女を見初めたほどです。
アポロンは礼節を守り、夜まで待ちました。が、ずる賢いヘルメスはとても我慢ができません。その杖がキオネに触れると、彼女はたちまち眠りに落ちました。その間に、ヘルメスは彼女を抱きました。
夜になって、アポロンが老婆に姿を変えて、キオネのところにやってきました。安心した彼女は老婆を家に入れました。その夜、アポロンは神である姿を現わすと。やはり彼女を抱きました。
キオネは両神の子を身ごもり、ヘルメスの子でずる賢い策略に飛んだアウトリュコスと、アポロンの子で竪琴の名手ピラムモンの双子を産みました。
マロッティ〈アルテミス〉
アルテミスの激怒
「アルテミスより、自分の方が美しい」
と言ってしまったキオネ。アポロンとヘルメスの両神の愛を得て、双子を産んだことで自慢してしまったのです。
アルテミスが許すはずもありません。
「でもね、わたしのやり口は、あなたのお気に召すはずよ」
女神はすぐさま弓を取り出すと、その矢でキオネの舌を射抜きました。キオネはその痛みを話すこともできず、流れる血とともに命を終えました。
娘キオネの火葬と父ダイダリオーンの暴走
弟ケーユクスの慰めが、娘キオネを失ったダイダリオーンの心に届くことはありません。何を言っても、その耳には入りません。キオネの遺体が焼かれる時、父ダイダリオーンは4回もその火に飛び込もうとしました。
しかし、弟とまわりの人々に押しとどめられると、狂ったように走り出しました。その速さは人間とは思われず、足に翼が生えたとしか思われません。
道なき野や森の中を駆け抜けると、ダイダリオーンはパルナッソス山を駆け上がり、その断崖から身を投げました。哀れんだアポロンが、その姿を鷹に変えました。
鷹になったダイダリオーンですが、荒い気性はそのままです。だから今でも鷹は、あらゆる鳥たちに猛威をふるっているのです。その娘を亡くした哀しみゆえに。
ダイダリオンの弟ケーユクスのその後は、こちらの話を読んでください。
→アルキュオネーとカワセミの話