ワッツ〈ミノタウロス〉
ミノス王、ポセイドンをだます
ミノス王は、クレータの王国を神々から授けられた証拠として、海神ポセイドンに白い牡牛を所望しました。海神は後で生け贄としてこの与えた牡牛を捧げることを条件に、王の望みをかなえました。
しかし、ミノス王はその白い牡牛があまりに素晴らしかったで、海神ポセイドンとの約束を別の牡牛を捧げることでごまかしました。
そんなごまかしが、海神に通じるはずがありません。海神は怒り、ミノス王の妃パシパエを狂わせたのです。
妃パシパエ、白い牡牛に恋
ミノス王の妃パシパエは、人間としてこの愛に苦しみました。
「どうしたらあの牡牛に近づけるだろう」
悩んだすえ、パシパエはダイダロス(意味:聡明な働き手)の知恵をかりることにしました。
「王妃さま、おやめください!」と、忠告するのが普通の家臣、いや人間です。
しかし、ダイダロスは生粋の発明家。
難問を与えられると、つい善悪を問わず、解決策を考えてしまうのです。
ロマーノ〈ダイダロスとパシパエ〉
ダイダロスが作った牝牛のハリボテ
「王妃さま、それでは私が愛らしい牝牛のハリボテをつくります。その中にお入りください」
と、ダイダロスはパシパエに提案しました。
数日後、まるで生きているかのような牝牛のハリボテができ上がりました。
「なんと可愛らしこと!さすがダイダロス。これなら必ず望みがかないます」
王妃パシパエは感嘆の声を出すと、すぐ牝牛のハリボテの中に入りました。ダイダロスは白い牡牛(おうし)がいる牧場に、王妃の入った牝牛のハリボテをおきました。
白い牡牛は、勢いよくハリボテを見つけ駈けてきました。
ミノタウロスの誕生
こうして生まれたのが、牛頭で人間の体を持ったミノタウロスです。ミノス王はダイダロスに怒りを感じましたが、ことは公にはできません。
王はダイダロスに命じ、あのラビリンス(迷宮)をつくらせ、ミノタウロスを閉じ込めたのです。
ミノタウロスには、毎年14人の人間が生贄として与えられました。生贄は、アテナイからの貢物です。その頃のアテナイは、強国ミノス王のクレータの支配下にあったからです。
いずれ、テセウスがアテナイの生贄としてクレタ島にやってきます。
ところで、パシパエと娘二人(アリアドネとパイドラ)は、不運という定めの下にありました。アリアドネは不運から酒神ディオニュソスと結ばれます。
テセウスの妻となったパイドラは夫の息子ヒッポリュトスに恋し、受けいられず首をつってしまいます。その後、王妃パシパエがどうなったのかはわかりません。
魔女キルケはパシパエの姉妹であり、姪にはあの魔女メデイアもいます。だから、パシパエも魔女であり、簡単に夫ミノス王に懲らしめられるはずがありません。