〈悲嘆にくれるアリアドネ〉
テセウスに取り残されたアリアドネ
夢枕に立った女神アテナは、テセウスにこう言いました。「アリアドネを連れて帰ると不幸になります。眠っている間に船出しなさい」。テセウスに取り残されたのは、アリアドネ。
彼女は、クレタ島のミノス王の娘です。
『テセウス様、将来を誓いあったのに、なぜ? あのダイダロスに頼んでミノタウロスを倒してからラビリンスの脱出方法まで教えてあげたのに......』
こんな悲しみのアリアドネに、女神アフロディテは人間のテセウスの代わりに、天上の恋人(神)を授けようとしました。
〈バッカスとアリアドネ〉
捨てる神あれば、拾う神あり
文字通り、拾う神それも若い神がいたのです。
そこは、ナクソス島、ディオニュソスの島です。いつものように島を散歩している若い神の目に、悲嘆にくれたアリアドネの姿が見えました。まだ、恋愛に疎かった若いディオニュソスには、もう女神のような美しさでした。
「ぼくの恋人になってよ! ぼくはこう見えてもゼウスの息子なんだ。決して怪しい神ではないよ」
「まぁ、初々しくて可愛らしい神様だこと。とても、チャーミングだわ」
一目惚れしやすいアリアドネ。もう、テセウスのことなどすっかり忘れています。
ディオニュソスはアリアドネを妻にし、結婚の贈り物に宝石をちりばめた黄金の冠を授けました。彼女が死んだ時、ディオニュソスはその黄金の冠を天にむかって投げました。天に近づくほど、その輝きは増して星座「かんむり座」になりました。
また、ナクソス島に取り残されたアリアドネはテセウスの子を妊娠しており、出産の時に死んだとも言われています。別説では、ディオニュソスの父ゼウスがアリアドネを不老不死にしたとの説もあります(ヘシオドス『神統記』)。
かんむり座
あまり名を聞いたこともない星座ですね。ラテン語での星座名【Corona Borealis】は「北の冠」という意味で、南のかんむり座と対になっています。
日本でも1922年までは「北冠座」とされていましたが、1922年末から1923年にかけて「冠座」に変更されました。
ただし、東亜天文学会系の研究者はそれ以降も「北冠」の名称を継続して使用しており、1957年から1960年にかけて学術用語として「かんむり座」と正式に定められました。
日本ではその形から、「車星(くるまぼし)」「太鼓星(たいこぼし)」「首飾り星」「馬のわらじ」など多数の呼び名があったそうです。またこれを「かまど」に見立てて「鬼のおかま」「地獄のかまど」「竈星(くどぼし)」「荒神星(こうじんぼし)」「へっついぼし」などとする呼び名が全国各地で使われていたそうです。
うしかい座は紀元前1200年頃には誕生していたと言われていますが、かんむり座は更に古く、紀元前3200年頃には既に知られていたと言われています。プトレマイオスの48星座のひとつにもなっていて、元は花輪がイメージされていたようですが、後になって冠が描かれるようになったようです。
小さな星座ですが、意外に目につく星座なので、日本でも太鼓星や首飾り星などと呼ばれることがあります。
【出典】