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娘ミュラと父親キュニラス王〈娘ミュラと父親キュニラス王〉

ミュラの禁断の思い

キュニラス王とは、自分が彫った彫刻に恋したあのピグマリオンの娘パポスの子。そのキュニラスには、美しい娘ミュラがいました。彼女には多くの貴公子が求婚していました。その求婚者の中から、ミュラは夫となるべき一人の若者を選べば幸せな人生を送れたのです。ところが......

私は何をするつもりなのだろうか!

「どうか、神さま、私が人の道と親子の掟を破る罪を止めてくださいますように。しかし、これが本当に罪なのでしょうか。自然の情は、そうとは思えないのです。雄牛だって自分が生ませた雌牛を妻に、雄山羊だって、自分が生ませた雌山羊を妻にします。鳥だっておなじです。でも、人間はどうして、父親と娘は結ばれてはいけないのでしょうか」

そう、ミュラの恋の相手は、父親キュニラスに向けられていたのです。
「禁じられた恋よ、去っておしまい。父上は愛されるにふさわしい人間、それは父親として。私は母親の恋敵となり、父親の情婦になろうとしているのだろうか。

息子の姉、弟の母と呼ばれたいのか。私の体が罪を犯さないうちに、心からその思いを断つように、大いなる自然の掟を犯すことがないように。どうか、神様お願いです......でも、でも、体が父を求めています。」

そんな娘の思いをつゆ知らず、父キュニラスはミュラに多くの求婚者の名前をあげながら、ミュラにたずねます。ミュラは父をただただ見つめるだけ。その思いの大きさに打ち負けないようにしていると、自然に涙が流れ落ちます。

父はそんな娘の涙を拭ってやり、額に口づけをし、再度娘にたずねます。
「娘よ、どんな夫が望みなのか」
「お父様のような人」

父の接吻にミュラは歓喜に包まれ、本心がもれます。
「まあ、時間をかけてゆっくり考えて決めるように。今日はお休み、ミュラ」
そう言うと、キュニラスは娘の部屋を出て行きました。

乳母の思いやり

自分の部屋で悶々とするミュラ。恥でしめつけられる心と欲望をかなえそうとする感情。二つの間をミュラは揺れ動いていました。そして、この恋には死ぬことしか残されていないのではないか......
何時間もの堂々めぐりの果てに、ミュラはとうとう死ぬことを決断しました。
「さようなら、お父様。私の心を知って欲しかった......」
そうつぶやくと、ミュラは天井の梁(はり)にかけた帯を首にかけたのです。
その時です、ずっと心配していた乳母がおかしいと気づき入ってきました。大声をあげ、帯を首から外し、ミュラを抱きしめ泣きながらミュラをとがめました。
「お嬢様、どうして首をくくろうとなさるのですか」
ミュラは乳母に背を向けてうずくまったまま、声をおさえて泣いています。
「おっしゃってください。私に手助けさせてください。きっと、恋をなさっているのですよね。その方は手の届かないお方なのですか。お父上には話してもわかってもらえぬお相手なのでしょう。私がなんとかいたします」

乳母の戦慄の決断!

『お父上』との言葉に、ピクッとしたミュラは立ち上がると
「早く、あっちへ行って。私の哀れな恥を聞き出さないで。あなたは大それた私の罪を知ろうとしないで」
乳母は、ミュラの剣幕におどきました。

ミュラは迷っていました。そして、とうとうこう言ったのです。
「なんて幸せなお母様、だってあんなに素敵な夫がおありなのだから」

その言葉に、すべてを理解した乳母は衝撃を受け、わなわな震えはじめました。しかし、それがかなわぬとお嬢様は死を選ぶことも理解していました。仕方がない、そう乳母は決意したのです。

「いいえ、死んではなりません。きっと結ばれるよう手助けいたします」
だか、乳母はことの重大さ、人の倫理にもとることから、さすがに「お父様と」とは口には出せません。

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