男として育ってきたイピスの婚約は?
「女の子なら、育てるのは止めにしたい……」
イピスの父リグドスは、男の子を望みました。なぜなら、貧しさのために働ける手が欲しかったからです。
しかし、生まれてきたのは女の子。
母テレトゥーサは女神イシスに願い、夫に嘘をついてイピスを男の子として育ててきました。だから、イピスも自分は男だと思い、女だと思ったことは一度もありません。
イピスが13歳になった時、父リグドスは金髪の娘イアンテと婚約させました。
希望を持って、婚礼の日を待ち望むイアンテ。一方、イピスは深い絶望感にとらわれていました。今は自分が女だとわかっていたからです。
「この先、この恋はどうなる?」しかし、明日が婚礼の日です。
ポセイドンの乱暴から男になったカイニス
老将ネストルが、話します。
「カイニスは、テッサリア一の美しい乙女であった。多くの求婚者が彼女を妻にと願ったが、誰もその願いはかなわなかった。
ある日のことだ。彼女が誰もいない海岸を歩いていた。そこへ、海神ポセイドンが現れて、彼女を強引に手込めにしたのだ。神はこの情事に満足して、彼女にこう言った。
「おまえの願いは、すべて叶えよう。なんなりと言いなさい」
すると、カイニスはこう答えたのだ。
「こんなひどい目に二度とあわないよう、女でなくしてください」
ポセイドンは、その願いを聞きいれた。さらに、どんな刃物によっても傷つかない体にしてやった。それ以後、彼女はカイネウスと名乗った。
カイネウスが槍や剣ではなく、どのように殺されてしまったか? 諸君、わかるかね?」
兄カウノスと追い続けた妹ビュブリス
双子の兄カウノスと妹ビュブリス。幼い頃に兄妹が抱きついたり、キスしたりするのは自然な行為。
今や立派な女になったビュブリス。今も兄カウノスを慕い続けています。カウノスが女友達と一緒に笑い合っていると嫉妬します。
「お兄さまが奥さまをもらう! ゼウスだって、姉のヘラを妃にしている。神々の掟は、人間界の掟とは違うのかしら...」
ビュブリスは鉄筆をとり、そんな兄カウノスへの思いをロウ板に刻みます。そして、意を決して召使いに渡し、兄の元へ送りました。
兄カウノスはロウ板を見るなり、怒りにかられて放り投げ、召使いをののしりました。
「このゴロツキが! 許されぬ邪恋を取り次ぐとは! 今すぐ、立ち去れ。わが家の恥が明るみに出ることになるかと思うと、命だけは助けてやる」
しかし、彼女はさらに大胆な行動をとります。その結末は果たして……