両性具有ヘルマプロディートスの妖艶
(更新日:2020.11.07)
ヤン・ホッサールト〈サルマキスとヘルマプロディートス〉
「この泉に入ったものは、みな自分と同じような体になってしまえ!」
美男ヘルメースと美の象徴アプロディーテの息子ヘルマプロディートスは叫んだ!
ヘルメースのアプロディーテへの思い
ヘルメースにとっては、アレースとアプロディーテ(ビーナス)の浮気が発覚した時、アポローンから言われたことがず〜っと頭から離れなかった。
アポローンがヘルメースにささやいた。
「アフロディーテを抱けるなら、どんな恥ずかしい姿を晒してもかまわないと思わないか」
ヘルメースは答えた。
「それができたらどんなによかろう。この三倍の鎖でぐるぐる巻きにされて、神々に見られても構わぬ。アフロディーテと寝られたならな」
アプロディーテに惚れたヘルメースは彼女をなんとかものにしようと思っていた。父ゼウスの血のなせる技であったろうか!しかし、まったく女神に相手にされなかった。そこでヘルメースは父ゼウスに頼んで鷲を借りてくると、その鷲にアプロディーテの黄金のサンダルを盗ませた。
ヘルメースは、このサンダルを返すことを条件にアプロディーテに関係を迫った。
「なあ、一夜でいいからつきあってくれ、サンダルは返すから」
女神は優越感をもって答えた。
「そんなに、わたしと寝たい。そういえば、あの時わたしの体をじろじろ見てたわね。アレースをうらやむような目もしてた。わたしには分かっていたのよ」
恋に関しては、女神アプロディーテに勝てるものはいない。まして、ヘルメースはまだ若き神だ。
バロトロメウス・スプランガー〈サルマキスとヘルマプロディートス〉美術史美術館
美少年ヘルマプロディートスの悲劇
こうして、2人の間に生まれたのが、美少年ヘルマプロディートス。少年はプリュギア(トルコ)の聖山であるイーデー山のニンフによって育てられた。15歳の少年は退屈のあまり、リュキアやカーリアなどを旅してまわった。見るもの見るものが、彼にとっては新鮮でワクワクした。特に河や泉を見るのが大好きだった。
そんな美少年ヘルマプロディートスに、運命ともいえる悲劇が起こってしまった。
カーリアの森の泉で、ニンフのサルマキスと出会ってしまったのだ。普通なら森のニンフは狩猟の女神アルテミスに仕えるのだが、彼女はそうすることはせず、泉の近くで花を摘んだりしていた。その時、このあまりに美しい少年に出会い、彼に恋し誘惑した。
「お姉さんと少し話していかない。わたしはそこ泉の精でサルマキス。泉の水は清くてとても肌に優しいの。きっとあなたも気に入ると思うわ」
「いえ、旅の途中で、先を急ぎますから」
赤くなった少年はドギマギし、早くここを離れたかった。
「そうか、お姉さんがいろいろ教えてあげようと思ったんだけどね」
このままでは美少年が去ってしまうと判断したサルマキスは、その場を離れそっと木陰に隠れた。
両性具有者ヘルマプロディートスの誕生
ヘルマプロディートスは泉に興味を持っていたので、彼女がいなくなったのを確かめると服を脱いで、泉へ入っていった。
「やった!今だ!」
木陰に隠れていたサルマキスは駆け出し、泉に飛び込み、少年を抱きしめた。
「何をするんだ、離せ、誰か助けて〜」
必死で逃れようとしたが、相手は女ではあるが年上で力も強く、抱きしめられるままであった。
このままでは少年は離れてしまうと思い、サルマキスは神々に訴えた。
「神様、どうかわたしたちを離さないでください。このままず〜っと一緒のままでいさせてください」
すると、彼女の願いは聞き届けられ、ふたりは一体化しはじめた。女性の象徴であるサルマキスの乳房はそのまま残り,美少年ヘルマプロディートスの象徴もそのまま残り、男と女の美をそなえた、なんとも艶かしい一人の両性具有者となっていた。
「この泉に入ったものは、みな同じような体になってしまえ!」
悲しみにとらわれた美少年ヘルマプロディートスは泉に呪いをかけた。両親のヘルメースとアプロディーテは、息子の願いを聞きいれて、魔性の力をこの泉に与えた。