〈アポロンとアルテミス、ニオベの子供を射殺〉
妊娠したカリストを追放
ギリシャ神話の処女神は、アテナ、アルテミス、ヘカテだけです。
アルテミスを崇拝する取り巻きのニンフたちもみな処女で、恋は厳禁、妊娠が発覚すると追放されます。例えば、カリストです。
ゼウスがアルテミスに変身して、カリストに近づき妊娠させます。やがてお腹が大きくなり、妊娠がバレてしまいます。アルテミスは妊娠を祝福するどころか激怒し、カリストを追放します。
ゼウスが自分に変身して、カリストを妊娠させたことには気づいていなかったのかもしれません。しかし、女神の怒りには、少しもためらいはありません。あまりにも頑なで一途な少女のようです。
この後、カリストはゼウスの妃ヘラの嫉妬により、熊に変身させられます。
カリストの子アルカスは大きくなって、熊になったカリストを母とは知らず、狩ろうとして槍を向けます。哀れに思ったゼウスが親子ともども天にあげて、「大熊座」と「子熊座」にしました。
ニオベーの悲哀
「神の掟」には、愛や思いやりはいっさいありません。いや、愛や思いやりは存在しないのかもしれません。なぜなら、宇宙(神)の支配には、寸分の狂いもあってはならないからです。
ちょっとした思いやりが大きな狂いを生み、崩壊へと導くのかもしれません。だから、「神の掟」は人間の理解を超えています。
ローマ神話では、アルテミスはディアナあるいはダイアナと呼ばれています。女神を描いた絵画では、頭に月の飾りを付けていますから、すぐにアルテミスとわかります。
〈アルテミスの顔は狂気じみています〉
ニオベの子供14人を兄アポロンと一緒に射殺!
ニオベは、群衆の前で言い放ちました。
「どうしてレトなどが崇拝されるのか! 私には7人の息子と7人の娘がいるのに、なぜおまえたちはわたしに敬意を払わないのか? レトには2人の子供(アポロンとアルテミス)しかいないのだ!」
激怒したレトは、アポロンとアルテミスに
「私は今日までお前たち2人を誇りにしてきました。大神ゼウスの妃ヘラを除いて、けっして他の女神たちに劣らぬと思っています。
その私が、人間の女におとしめられて、今や自分はほんとうに女神なのかと疑い始めています。お前たちが母さんを守ってくれないと、人間たちの崇拝を奪われてしまいます......」
この時、レトは〈ニオベにどんな罰を与えるか〉言わなかったのです。ふつうに考えれば、ニオベ本人に罰を与えればよいと考えるのではないでしょうか。
しかし、アポロンとアルテミスは、ニオベの子供14人全員を射殺したのです。子供に罪はないのにです。
アポロンとアルテミスが生まれたばかりの頃、レトは子供たちに水を飲ませようとして沼に手を入れました。すると、沼がある村に住んでいた農夫たちは足で水をかき回して汚したのです。
その時、レトはその農夫全員カエルに変えてしまいました。母の性格は、しっかり娘に遺伝しているようです。
青年アクタイオンの悲劇
青年アクタイオンは鹿狩りをしている時、たまたまアルテミスが水浴している泉の近くに迷い込んでしまいました。そして、彼は周りのニンフに見つかると、女神は彼に決然と言います。
「さぁ、できるなら、このアルテミスの裸を見たとふれまわるがよい!」と。
するとアクタイオンの体はすぐに鹿に変わり、彼の狩りの仲間と猟犬に追われて殺されてしまいます。
アルテミスは神ですから、アクタイオンが迷ってきたのであり、覗きに来たのではないことくらい分かっていたはずです。
ただ女神の頭の中にあるのは「わたしは裸を見られた。許さない!」ということだけなのです。
「もっと見たい? 近くに来なさい」と微笑んで誘惑するようことは、とても言えないのがアルテミスなのです。
最後に、アルテミスのオリオンへの恋
恋には理由がないかもしれませんが、アルテミスがポセイドンの子である漁師オリオンに惚れた理由がよく分かりません。ひょっとすると、この恋の失敗によるトラウマが、女神の心を愛情から遠ざけてしまったのかもしれません。