1話5分で読めるギリシャ神話

ギリシャ神話の神・女神・英雄のエピソードが、絵画で分かりやすい。また、ギリシャ神話はあなたの美術鑑賞に役立ちます。〈アートバイブル〉も、絵画でわかりやすい聖書です。

パエトンの墜落

太陽の二輪車を運転することをアポロンに懇願するパエトン
ベンジャミン・ウエスト〈太陽の二輪車をアポロンに懇願するパエトン〉

「なんという素晴らしさ!
今この闇を切り開いているのは、僕なんだ!
今の僕を見れば、もう誰も疑う友はいないはずだ」
パエトンは太陽の二輪車に乗り、誇らしげに天空を光で切り裂いて行きます。

アポローンの子パエトン
パエトンは、太陽神アポローンとニンフ(精霊)クリュメネーの子。
ある日、一人の友だちが、「太陽神の子なんておかしいよ」と、笑いました。腹立たしさと恥ずかさでパエトンは、母にたずねました。
「ぼくは、本当にあの太陽神の子なの?証拠はあるの?」
「本当です。お父さまの太陽の宮殿に行ってたずねてごらんなさい」
パエトンはワクワクしながら、日の出の地方に旅立ちました。

太陽の宮殿は、黄金と宝石で輝いています。
アポローンが座っている玉座の脇には、日の神や月の神、年月の神々などが従っています。パエトンは、恐る恐る「本当に僕のお父さん?」とたずねました。アポローンはパエトンを抱きしめ、「本当に私の子だよ。証拠に望みを何でもかなえてやろう」と、冥界の河ステュクスにかけて誓いました。

「太陽の二輪車に乗って、天空を走ってみたい」と、パエトンはお願いしました。
「太陽の二輪車だと? それだけは駄目だ!あの大神ゼウス様でさえ、乗りこなすことはできないのだ」
アポローンは言い聞かせましたが、パエトンはどうしても聞き入れず、何度も頼みます。アポローンは〈誓い〉を立てた以上、神々でさえ守らなければならず、最後には許してしまいました。

パエトンの飛翔
パエトンは、太陽の二輪車に飛び乗ると、誇らしげに馬の手綱をとり、天空に駆けあがって行きました。
「なんという素晴らしさ!今の僕を見れば、もう誰も疑う友はいないはずだ」
しかし、すぐ馬はいつもより二輪車が軽いので、暴走しはじめ、いつもの道をどんどん外れていきます。
熱に焦がされた大熊(座)と小熊(座)が海に飛び込みたくなり、北極のヘビ(座)も冬眠から目覚め凶暴化し、牛飼い(座)も逃げ出したということです。
回りにいる怪物たち、近くには大きく腕を広げたサソリ(座)に勇気もくじけ、パエトンは手綱を放してしまいました。そして後悔の念でいっぱいになりました。

太陽の二輪車は、天空の高みから、地表まで道なき道を走りつづけます。アポローンの妹、月の女神も兄の二輪車が自分よりも下を走っているに驚いたくらいです。海神ポセイドンも熱さにたえられず、水面から顔を出すこともできません。大きな街の城壁や塔も焼け落ち、たくさんの国と住民も焼き尽くされて灰となっていきます。今や山々は炎に包まれ、地表の川や海も熱で干上がりはじめました。

パエトンの墜落
ピーテル・パウル・ルーベンス〈パエトンの墜落〉

パエトンの墜落
大地の豊穣女神は、天を見上げて訴えました。
「おお、ゼウス様!どうのような過ちを私たちが犯したというのですか?毎年もたらす実りにたいする報いなのですか?このままでは、海も陸も天も焼けてしまいます。どうか、この業火からお救いください」

全能の神ゼウスはアポローンを含めた全ての神々を集め、ことの是非を決めると、パエトンめがけて稲妻を投げつけました。パエトンは真っ逆さまに落ちてゆきました。
落ちてくるパエトンの体を河の神エーリダノスが受け止め、冷やしてやりました。パエトンの妹のへーリアスたちは兄の運命を悲しみ、ポプラの木となり、流す涙は河面に落ちて琥珀(こはく)の玉になりました。