テーセウス物語 後編 ヒッポリュトスの死とペイトリオスと冥界へ
アレクサンドル・カバネル〈パイドラー〉モンペリエ、ファーブル美術館
息子ヒッポリュトスとテーセウスの新妻パイドラー
アンティオペーの死後、テーセウスはミーノース王の娘アドリアネーの妹パイドラーを妻としました。
美徳をかねそなえた前妻の息子ヒッポリュトス。新妻パイドラーはこの義理の息子に恋心を抱くようになりました。が、ヒッポリュトスは女性には興味がなく、継母の恋をはねつけました。彼には、処女神アルテミスを崇拝し、狩りにしか関心がなかったのです。
パイドラーの恋は憎悪に変わり、また、真実が夫テーセウスに知られることを恐れ「ヒッポリュトスに辱めを受けました」と遺書を残し自殺してしまいました。
怒ったテーセウスは、息子に災いがくだるよう、海神ポセイドーンに祈りました。
ヒッポリュトスが二輪車に乗り、海辺を走っていた時のこと。海から怪物が姿を現すと、馬は暴れ、二輪車を粉々にし、彼は死んでしまいました。が、彼が崇拝していた女神アルテミスの助けもあって、医師アスクレピオスが彼を生き返らします。その後、彼はイタリアでエーゲリアというニンフに保護されました。
ローレンス・アルマ=タデマ〈ヒッポリュトスの死〉
美少女ヘレネーをさらい、冥界の女王ペルセポネーへの無謀な思い
新妻パイドラーが死んだ頃、ペイトリオスも妻ヒッポダメイアを亡くしていました。二人は大神ゼウスの娘を妻にしようと相談。テーセウスは幼いヘレネー(トロイア戦争の原因)を選び、ペイトリオスはなんと冥界の女王ペルセポネーを選びました。
二人はスパルタにいたヘレネーを誘拐し、アテナイまで連れて帰ることに成功します。しかし、いずれスパルタのヘレネーの兄弟ディオスクーロイ(カストールとポリュデウケース)がヘレネー捜索に動きだすことを予想していました。戦争を避けたいテーセウスはヘレネーを母アイトラーにゆだね、アテナイから離れた場所に隠しました。
Odorcio Politi〈ヘレネとサイコロで遊ぶテセウスとペイリトオス〉
テーセウスとペイトリオスと冥界の「忘却の椅子」
その後、テーセウスとペイトリオスは冥界へいき、なんとも脳天気な行動をします。ペルセポネーの夫である冥界の王ハーデースにその目的を話してしまいました。内心呆れはてたハーデースは、二人に椅子に座るようすすめました。この椅子は「忘却の椅子」と呼ばれ、座ると身動きできなくなり、記憶を失ってしまうのです。こうして、二人はそのまま冥界に捕われれの身となったのです。
やがて、ヘラクレスが「ケルベロスの試練」で冥界にやってきた時、テーセウスだけは助けられました。が、ペイトリオスは助けだされず、その運命のままにゆだねられました。
【ヘラクレスの功業12 冥界の番犬ケルベロス】参照
テーセウス達が冥界に捕われている間に、ヘレネーは兄弟ディオスクーロイに発見され連れ戻されました。テーセウスはアテナイの王位も奪われて、スキューロス島の王リュコメーデースのもとに身を寄せました。王は彼に王位を奪われるのを恐れ、彼を裏切り殺してしまいます。
後年、アテナイの将軍キモーンはテーセウスの遺骸を発見すると、アテナイに持って帰りました。遺骸は、テーセウスのために建てられたテーセリオンという社に納められることになりました。
ジャン=ブルーノガス〈ヘレネーを助けるディオスクーロイ〉